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海へ出た初夏の旅6
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(葵語り)
泣きたかったけど、泣いたら負ける気がして歯を食いしばって涙の波を蹴散らした。
たかがお見合いで泣くなんて、どっかのヒステリックな女子みたいだ。俺はそんなんじゃないもん。先生には先生の事情がある。
だけど…………内緒にされてたことは、流石に堪えた。それでも頭は必死に理解しようとする。小さい町だし、先生のお父さんが無理やり勧めてきたから、断れなかったと説明されるんだろう。付き合いだからしょうがないんだ。どうせ断るつもりだったから、葵には言う必要がないだろうと、勝手に判断してごめんって、謝られるのが関の山だ。
俺が落ち着くまで宥めて、キスして、セックスに持ち込めば赦したと思われてしまう。どうにかなるなんて大間違いだ。流されて赦してしまうのも嫌だった。簡単に扱われてしまうことが予想されて、怒りに火がついた俺は先生の側を静かに離れることにした。
俺はチョロくない。年下だから分かる筈ないじゃなくて、事後でも相談して欲しかった。先生にとっては些細なことでも、俺にとっては重要なことなのだ。
表通りから一歩外れると、静かな住宅街に入る。借りた雪駄は俺の足には少し大きくて、歩く度にペタペタと引きずるような音がした。
携帯を取り出し、電源を落とす。こんなもので簡単に探し出されては意味がない。先生を困らせてやるんだ。
「あれ、やっぱり葵君だ。」
「…………うわぁ、びっくりした……」
民家の窓から前に会ったことのある顔が突然出てきたのだ。えっと、誰だっけ。見たことある人だ。うんと……忘れた。
「俺のこと覚えてない?何回か病院で会ったたよね。雅人だよ。」
「まさと……さん?あ、ぁぁぁ……」
先生の隣に住んでる幼馴染のお医者さんだ。中学生の先生を襲ったお姉さんがいる。そっちの方が強烈すぎて、弟さんが霞んだ記憶の向こうへ行っていた。
「こんなとこで何やってんの。祐ちゃんとお祭りにきたんでしょ。1人で知らない町をフラフラしてるってことは、もしや喧嘩したとか……祐ちゃんでも喧嘩するんだ。なんか普通のカップルみたいで微笑ましいね。」
「ほっといてください。」
「迷子になっちゃうよ。良かったら、ここで休憩してく?」
ここ………?雅人さんが顔を出しているのは普通の民家の窓だ。見知らぬ他人の家に上がり込むのはちょっと遠慮したい。
「あのね、普通の家に見えるけど、中は居酒屋だから。俺の知り合いがやってんの。まぁ、祐ちゃんも知ってる奴だけどさ、美味しい海の幸を食べさせてくれるんだよ。一息つこう。入っておいで。」
開けた窓から出汁のいい匂いがした。それに引き寄せられるように、雅人さんが手招きをする屋内へお邪魔することにした。
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