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全ての講義が終了し、祐也の家まで並んで帰る。電車に乗って祐也の最寄駅で降りようとした時、祐也に腕を引かれた。
「まだだって」
「え、降りる駅ここだろ」
「言ってなかったっけ。俺こないだ引越した」
「はぁ?そんなの一言も聞いてねぇし。なんで引っ越したんだよ」
「んー…別に理由はねぇけど。強いてあげるなら、凪ん家と少しでも近い方がいいかなって」
「え、それだけ?あの家綺麗だったし、大学近かったから次の日学校行くのすげぇ楽だったのに」
「まぁね。でも今度から一緒に帰れるだろ?」
「勿論、行くときも一緒だけどな」と付け足した祐也は、にこりと笑った。
「もしかして、見せたかったものって家のこと?」
それなら納得、と凪は思った。
「んー?いや、それじゃない」
「なんだよ、勿体ぶりやがって。ヒントちょうだい、ヒント」
「だーめ、まだ教えない」
「ちっ」
舌打ちしない、と窘められながら、帰路に着いた。
降りた駅は凪の一つ前の駅だった。確かに、これならお互いの家を往来するのは楽かもしれない。
流石に毎日祐也の顔は見たくないけれど。これはこれで何かと便利ではある。
途中、祐也の家の近くのコンビニへ寄って、各々好きな弁当とデザートを買った。カスタードたっぷりのシュークリーム、そして昨日食べ損ねた、鶏マヨ弁当を手に、家に着くまで祐也と他愛もない会話をした。
この何でもない日常を味わうのは久しぶりで、純粋に楽しかった。祐也も特に変な様子はないし、自分の勘違いだったのだろう。横の祐也を眺めながら、申し訳なく思った。
「はい、どうぞ」
祐也が玄関のドアを開いて、先に入れてくれる。
「お邪魔します」
「ふ、なんでそんな畏まってんの」
「うるせ」
靴を脱いでキッチン横の廊下を歩くと、十畳ほどの部屋がある。紺とグレーで統一された部屋は、清潔感があり、それと同時に少し生活感がない。こうも自分の部屋と異なるものか。と、少し恨めしそうに祐也を振り返る。
「なになに、どうした」
「や、別に」
「座るならそのソファ座りな。あ、水飲む?」
「うん、飲む」
「座って待ってて。持ってくる」
すぐにキッチンに戻った祐也を見送り、グレーのソファに腰掛ける。柔らかい感触のソファが身体を包み込んだ。これは快適である。
安らいでいるところ、祐也がすぐに戻ってきた。
「はい」
水を手渡しされる。
「ありがと」と言うと「ちゃんとありがとう言えて偉いじゃん」と謎に褒められた。この男、俺を子供か何かと思っているのでは、と思ったが、ソファが気持ち良すぎたので、反論するのはやめた。
「凪、ちょっと詰めて」
祐也がソファの奥を指差している。
「無理。動けねぇ」
「俺座れねぇじゃん」
「いや、座れるだろ。ほらここ」
僅かに空いた席を指差し、裕也を見る。
「舐めてる?ほら、早く。そっち詰めて」
「えぇ〜いまこのソファ堪能してんのに」
動く気がさらさらない凪はだらん、とソファに身体を預けたままだ。
「そういうことなら、」
「ぅわっ」
突然ぐい、と腕を引かれ立たされると、祐也がソファの真中に座った。
「おい、今の最低だぞ、人が寛いでるときに……」
文句を言ってやろうとしたその時、腰に腕を回され、勢いよく引かれてしまう。体勢を崩した凪は、そのまま祐也の上に座る形になった。
「これでいい?」
「…は?なに……」
祐也が腰に手を回して、ぐっ、と身体を引き寄せてくる。そのまま背もたれに身体を預けた祐也につられて、凪も祐也に身体を預けることになる。
「お…おい、裕也…!なにすんだ…っ」
祐也を見ようと振り向くと、顔が目前にあって、どきりと心臓が跳ねる。祐也の綺麗な顔と向かい合う形になってしまい、直ぐにまずい、と直感が働いた。
沈みかけている夕日の僅かな光が、二人を照らしている。
痛いほど刺さる祐也の眼差しに、動くことも敵わない。頭ではわかっているのに、身体が言うことを聞かない。いや、きっと、動いてしまうと、逆にこの目の前の男の本能に、火をつけてしまうような気がしたから、という方が正しかった。
しばらく、お互い見つめ合ったままだった。時間にして十秒も経っていなかったと思うが、凪にとっては長い時間そうしていたような気がした。
だが、それは祐也の不意な笑顔によって解かれることになる。
「はは、これだったらお互い、真ん中に座れるだろ?」
「…へ?」
予想だにしない言葉に、つい、間抜けな声が出た。
てっきり、またキスをされるのでは、と予想していただけに、肩透かしをくらった気分だった。
「凪、お前ちゃんと食ってる?軽すぎない?」なんて、祐也は腹をさすってくるが、しばらく反応できずにいて、ただただ呆然としていた。
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