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特売日は逃しません
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大学の敷地に入った瞬間、薫の周りには一気に人だかりができた。
男女問わず、薫の周りにはいつも人がいる。
だから、ここへ来たら俺は必要ない。
守る必要が、ない。
さりげなく、気づかれないように離れて俺は1人で歩く。
俺とは逆に流れていく人の半分がきっと薫の元へ行くのだろう。
羨んだことはあれど、憎んだことはない。
なんて言ったって、ただ1人の可愛い弟なんだから。
「…………今日は卵の特売日だったな」
そういえばと冷蔵庫に貼っていたスーパーのチラシを思い浮かべながら、今日はオムライスにしようと考える。
料理は好きだ。
食べた薫が美味しいと笑ってくれるから。
「最近魚食ってないな。
煮付け?焼き魚?この時期なら……、った!」
ぼんやりと、いや割と真剣に悩んでいた時、まえから来た人に気づかずぶつかってしまった。
男子の平均身長より少し高い俺でも見上げるその顔は逆光のせいで見ることができない。
今のは完全に前を見てなく考え事をしていた自分に非がある。
「あ、すみません、前見てなくて…」
「…………」
……なんか言えよ。
「怪我とかは…」
「…………」
なんか言え!
「あの、」
「……気をつけろ」
「あ、はい」
それだけを言ってスタスタと歩いて行ってしまった。
逆光のせいでその顔は見えなかったが、その視線はじっと俺に向けられているような気がした。
いやいやいや、俺そんな怒らせるようなことしたか?
確かにぶつかったが……
歩くそいつの後ろ姿を目で追うと、すれ違う女子たちが振り返ってみているので、イケメンなのかと思った。
ー顔、みとけばよかったわ。
時計を見るともう講義が始まる時間を指しており、やべ!と慌てて講義室に向かった。
「あさにぃ、珍しいね遅刻なんて。どこ行ってたの?」
すでに講義が始まっているところに静かに入り、きっと開けておいてくれたのだろう薫の横に座る。
ニコニコと、でも少し心配そうに頬杖をつきながら薫がそう尋ねてきた。
「夕飯のこと考えてた」
「ふふっ、なにそれあさにぃらしい」
小さく笑う薫を見て、あぁ天使だと思った。
講義が終わって部屋から出て、次の講義まで時間を潰そうと2人で歩いているとき、またも囲まれた薫に苦笑しつつもすかさず離れた。
なんだかもう、これは癖みたいなものだ。
それに薫は気づいているのか。
いや、俺の気持ちに気づいているから何も言ってこないのか。
はたまた、全く気付いていないのか。
「あぁそうだ、久しぶりに『庭』に行ってみよう」
と、薫に背を向け、薫とは逆の進行方向へと歩き出した。
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