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「君と颯佑は、恋人だったじゃないか」
佐倉の口から出たのは驚くというにはあまりにも衝撃的なことだった。
記憶に残らないはずのない、大きな存在のはず。
「え、は、え…?ちょっと待って、え、なに」
動揺を隠しきれずに思わず目を手で覆った。
「からかってる?」
「まさか」
動揺していたのは俺だけではなかったらしい。
え、なに、本当に覚えてないの?と佐倉は戸惑う。
そんなこと言われたって、俺だってわからないのだからどうしようもないのだ。
「なんかあった?」
「それが、わからないんだ」
もしかしたら、と佐倉は言う。
「原因があれば、きっかけ1つですぐ戻ると思うんだけど」
申し訳なさそうな顔をする佐倉に、俺の方が申し訳なくなる。
前に人を傷つけていることをどう思うかと神凪に聞いたことがあった。
けれど、今の俺は神凪を傷つけているのではないだろうか。
「それを聞くってことは、思い出したいんだよね?」
「うん」
なら、と俺に向き直った。
「俺も手伝うよ」
「え、あ、ありがとう」
「いや、俺も亜沙樹君には世話になったから」
と、困ったように笑った佐倉はブランコを揺すった。
「兄貴に振られた後、亜沙樹君どうした?」
「……どこかの教室で、泣いた…気がする」
「そこで誰かと会ったでしょ?」
そんなの、な……
『まだ行くな』
『ここにいればいい』
響く声。
「………、あっ…た」
「それは、誰?」
誰?
思い出そうと目を瞑るも、顔だけが逆光のように暗くなって出てこない。
けれど、声が。
聞こえる、響くその声を知っている。
「か、んなぎ……、」
低く無愛想で、けれどどこか安心する声。
つめたくても、短くくても、嫌いになれない声は神凪だからなのだろうか。
カチャン、カチャンと鍵が外れていく。
けれど終わりの見えないそれは、一体いくつ付いているのか。
もう少し、もう少しなんだ。
「確信はないっぽいね」
苦笑した佐倉は腕時計を見て、まずいとブランコから立ち上がった。
俺はそれを見上げた。
「もう待ち合わせだ。ごめん亜沙樹君、また今度」
「あぁ、ありがとう佐倉」
走っていく佐倉の姿が見えなくなるまで見つめる。
そして考える。
あれから、あの泣いた後から何があったのかと。
けれど、さっきまで思い出せそうな予感は途絶えまた穴が開いた。
もう少し、
「もう少しなんだ」
後1つ何かがあれば、すべての鍵が一斉に解ける気がするのだ。
ただ足りない。
大きな鍵が。
「んむ、むむむむ」
佐倉の言葉を思い出し、両手で頬を包む。
包んだその手が頬が熱いと伝えてくる。
「?ーー」
両手で頬を包んだまま、頭を下げた。
恋人?こいびと?
俺と、神凪が?
なんだよ、それ。
なんでこんなにむず痒いんだ。
なんでこんなに恥ずかしいんだ。
なんでこんなに、嬉しいなんて思ってしまうんだ。
ダメだ、考え始めたら止まらない。
お前が頭から離れない。
神凪ー、
「好き」
記憶にない過去の自分が羨ましいと思ってしまって、これで自分の気持ちに気付かない馬鹿なんているのだろうか。
声に出した瞬間、もっと恥ずかしくなって熱くなった顔をごまかすように立ち上がった。
「よし、今日はシチューだうん。」
決してそれが神凪が好きだと言ったからではない。
決してない。
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