アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
君がために 2
-
いつものように颯佑と昼ごはんを食べ終わり、互いにご馳走様でしたと手を合わせた後。
俺はコツンと机に額を落とした。
「あさ」
「ん、…眠い……」
どうした?という雰囲気に襲ってくる睡魔を訴えた。
若干うつろうつろする中で、視界にあった颯佑の手にそっと自分の手を重ねると、何も言わずきゅうっと指を絡められる。
最近はこれが1番安心して、手が触れ合っていることで少しだけ速くなる鼓動を感じながら、眠りに落ちる、なんてことがしょっちゅうだ。
「……そうすけ」
「ん」
「…あったかい………」
薄れゆく意識の中で、もう同じことを幾度となく言ってきた言葉をまた口の中で繰り返す。
多分それに返事がないのは、また俺を現実に引き戻さないための気遣いだろう。
けれど少しだけ、絡まる指が強くなった。
あぁ落ちる、と感じた瞬間に大きく扉を開ける音がした。
「冬樹いるか?」
扉を開けたのは夏樹先輩だった。
もう高校は卒業して、流れ通り大学に行った夏樹先輩は時々部活を見にと、薫の様子を見に高校を訪れる。
『薫を頼むぜおにーさん』
卒業の時、夏樹先輩は俺にそういった。
そしてまた、この人も俺を薫で縛るのかと少しだけ寂しくなったりもした。
けどそれに気を落としていた俺に気づきその日はずっと抱きしめてくれた颯佑を思うとそんなことどうでもいいくらいだった。
「……………、何お前らそういう関係なの?」
夏樹先輩の視線がどこにあるかに気づいた瞬間に、俺は思いっきり颯佑のてから自分の手を引き抜いた。
「聞いてないんだけど俺」
水臭いなぁ、と笑った声が聞こえた。
けれど俺は、テンパって。
「あ、あの、夏樹先輩、……、これは-っ」
「夏樹さん」
俺の言葉を遮ったのは颯佑だった。
「邪魔しないでください」
「そっ、!」
「なに?やっぱりかよ」
くつくつと笑う夏樹先輩のその顔は至極楽しそうだ。まさかあの颯佑になぁ、なんて止まらない笑いを抑えている。
「颯佑、」
「いいから」
「でも…、」
「なつきー冬樹いたの?」
その時、夏樹先輩の後ろから聞こえた声に、ピシリと体が凍りついた。
まって、まって。
それは、あまりに急すぎるだろう。
1年間言わないでおいたのに、今ここでこんな風にバレるのはなんか、違う。
あまりの胸騒ぎに、ぞわっと鳥肌がたった。
「いや、いなかった。けどお前のお兄ちゃんはいたぞ」
まって。
「お兄ちゃんって、あさにぃ?」
「かおる…」
夏樹先輩の後ろからひょっこりと顔を出したのは紛れもなく俺の弟、咲田薫。
「あさにぃ、その人、誰?」
コテンと首をかしげながら俺ら2人に近づいてきて、俺の隣に立って颯佑をじっと見つめる薫。
その薫をまたじっと見つめ返す颯佑。
「……咲田薫」
「え、うんそうだけど。ねぇあさにぃ」
誰?とまた聞いてくる。
なぜ今日に限って俺に聞いてくるのだろう。
いつもの薫なら本人に直接聞くのに。
「神凪颯佑」
「友達?」
ううん違う。
だって俺は颯佑が好きで、颯佑も俺を好きなはず、だから。
それをきっと友達とは呼ばない。
「違うの?……じゃあ、彼氏?」
「…付き合って、もらってる」
嘘をつくなんて嫌だから。
きっとそれは、薫にではなく颯佑にだ。
「….なーんだ、だからずっと昼休み探してもいなかったんだね納得!」
「黙ってて、ごめん」
「うーうん、いいのそんなことは!おめでとうあさにぃ!」
「うん、ありがとう」
薫の反応にすごくホッとして、薫の頭を撫でながら笑いかける。
なんだ、あの胸騒ぎと嫌な予感は俺の考えすぎだったのか。
「いつから?」
「えっと、1年くらい前」
「僕らのちょっと後だね!」
「じゃあ俺に告白したすぐ後じゃん」
夏樹先輩のその言葉に、ギクッとした。
だってそのことは薫には言ってないから。
「…………あさにぃ?」
「……なんだ」
「夏樹の事好きだったの?」
「…………もうずっと前の話だよ」
そう、もう前の話であり終わった話だ。
だって今の俺には、颯佑が隣にいてくれるから。
ふと颯佑の方を見ると目があって、優しく見つめてくるその目に俺は微笑み返した。
「あさにぃ」
なぜだろう。
祝ってもらって、よくわからなかった蟠りが解けたはずなのに、俺の呼ぶ薫の声が少しだけ冷たい気がするのは。
「僕と颯佑、どっちが大事?」
そう尋ねた薫の意図はわからなくて、その顔からは何も読み取れない。
今の俺に、どっちなんて聞くのは、なんて意地悪なのだろうか。
だってそんなの、ずっと一緒にいるべきのは薫で、けれどずっと一緒にいたいと願うのは颯佑で。
そこに優劣なんて、決められるわけがない。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
65 / 92