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休日の過ごし方(5)
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案外人は居なくて、俺たちの両隣は誰も座っていなかった。だから、俺は上映中という事を利用して天野の手をそっと握る。暗闇の中で、表情がはっきりと見えないけれど明らかに嫌そうな顔をして、俺の方に顔を向ける。
いつもだったら、振り払われていただろうし、怒られるけれど今はそうもいかないだろう。なんせ、上映中だから静かにしないと。両隣には居ないものの、前の席には人が座っているんだからな。横からじーっと視線を感じるけれど、知らないふりを決め込んでやる。こうやって、触れていくうちに好きになってくれたら良いのに。さっきの、間接キスでは拒絶も何も全くの無関心だったから、正直それはそれで寂しい。
一緒に寝ても、何も変わらないからな。酷い事をしてしまっても、次の日からは平然といつも通り。もっと感情をさらけ出せばいいのに、不器用なやつ。怒りとか悲しみとか、溜め込んでいるのはわかってる。でも、それを俺に見せてくれたのは光君と別れた時と、結婚式の日だけ。俺とは真逆のタイプだから、好きになってもらえないのは仕方ないのかもしれない。いくら好きになってもらいたいからとはいえ、自分の性格を押し殺した状態で好きになってもらっても嬉しくないしな。
「終わったんで、手離して下さい。」
「はいはい。」
「トイレ行ってきてもいいですか。」
「じゃあ、俺はそこに座って待ってるな。」
そう言って、離れてしまう天野を見送る。
やっぱ、人がいる所に連れて来たくないな。家にずっと閉じ込めておくのは、駄目な事ぐらいわかってるさ。誰の目にも触れさせたくないと思うのも駄目なことぐらいわかってる。けど、今のたったこの瞬間だけでも若い女の子とか、俺と同じぐらいの年齢だろう男の視線が天野へと集中するんだ。
社内では、俺がひたすら天野にかまっていたから、飯塚以外は恋愛感情とかではなく、母性本能的な感じで可愛がっていたから特に心配はなかった。皆、天野の性格を多少は理解していたから。お菓子とか、作りすぎたものとか、よく天野にあげていた。わかっていても、嫉妬はしてしまったけど。でも、今は違う。明らかに頬を染めている。
「お待たせしました。」
「よし、じゃあ昼行くか。」
「はい。」
また、ちっぽけなアピールとして天野の頭を撫でる。すると、直ぐ様髪の毛を直し始めて本当傷つくんだけどなぁ。
「三浦さんって、ボディタッチ多いですよね。」
「そりゃあ、触りたいんだから仕方ない。」
「…はぁ。お返しです。」
ん?と言う前に、セットしていた髪をグシャグシャにかき乱される。
「ちょ、俺はここまでしてないだろ!」
「倍返しですよ。」
「そんな照れなくても、素直に優しく撫でてくれたら良いのに。」
「…髪にソフトクリームでもトッピングしましょうか。」
「いや、本当大丈夫です。」
セットしていた髪をグシャグシャにされたのに、ときめく俺って…。というか、天野がこんな事をしてくること自体レアなんだよ。だから仕方ない。
「三浦さん?」
「…好き。」
「TPOって単語わかりますかね?ここ、何処かわかってます?」
「あー、本当不意打ち反則だわ。」
「へぇ。」
「ついでに、名前呼んで。」
「康介さん。」
「さんいらない。」
「俺、先にご飯食べに行きますから。」
流石に調子に乗りすぎたようで、思い切りため息を吐いて呆れた顔をしてから、俺を置いて歩いて行く天野の後ろを追いかける。ニヤける口元を手で隠していると、まだニヤけているのかと言われた。
お前が日頃から、あんな事をしてくれたり名前で呼んでくれていれば、ここまでニヤける事はないんだけどな。俺をこんなにも喜ばせておいた本人は、眠そうに欠伸をしている。どれだけ寝たら気が済むのだか。今日は9時間近く寝ていたはずなんだけどな。放って置いたらどれぐらい寝るんだろう。
「何頼む?」
「レンコンと菜の花のトマトスープパスタ。」
「美味しそうだな。」
「三浦さんは?」
「この日替わりランチ。あと、名前で呼んでほしいんだが。」
「一緒に暮らしているとは言え、上下関係はある程度守るので。」
「名前で呼んでくれって。天野には上下関係を作られたくない。タメ口、呼び捨て、ボディタッチ激しめでよろしく。」
「すみませーん。」
「話聞けよ。」
見事に俺の主張は無視され、近くにいた店員さんに注文を頼み始める。
天野が行きたいと言っていたここは、本棚に囲まれていて照明も少し暗め。所々にアンティークっぽい小物やドライフラワーなどが置かれていて、店内には落ち着いた音楽が流れている。客は女性が大半だけど、男性もまぁまぁ。…お洒落な店だな。行きたいと思っていても、一人では入りづらかったらしいけど、確かにそれはわかる。
「じゃあ、呼び方だけ。呼び捨ては無理ですけどね。」
「まぁ、それでいいよ。俺も、皐月って呼んでも良い?」
「どうぞ。」
散々この間キレておいて、まだ名字で呼んでいたことに気が付き聞いてみた。まぁ、了承される事はわかっていたけど。
「皐月って、名前の由来は5月に生まれたからだよな。」
「単純ですよね。」
「響きとか、結構好きだけどな。」
「でも、よく女だと間違えられますけどね。」
「外見もそうだろ。」
「いや、それは流石にないですよ。確かに、三浦さん程体格は良くないですけど、手とかゴツゴツしてますし。」
「ガリガリだからだろ。」
どこからそんな自身が出るんだか。どう見ても、中性的な顔だ。身長は日本人の平均よりかは高いけど俺寄りは低いし、服装は女性でも行けるし、腰回りとか特に細い。手だって爪とか指とか綺麗だ。女装させる趣味はないが似合いそう。綺麗なのに自分の魅力に気づいていないなんて、勿体無いな。
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