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57動揺と尊敬
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「ひ、じかた……歳三……?」
聞こえた名に涙は止まり、思考までもが止まった。
「貴方が……?」
「そうだ。本気で知らなかったんだな」
クックックと笑う大尽……土方歳三は諸説で聞くような『鬼』の雰囲気は全くない。
この人が、俺の、大好きな、『土方歳三』……。
「……お、恐れ多い……」
ポツリとそんなことを呟いてしまう。
その言葉に、土方さんは少し目を細めた。
「……楓は、俺の素性を知らなかったから、あんな風に接してくれただけか?」
「え?」
少し悲しそうに歪んだ顔に、胸が傷んだ。
「……大体の奴らは、俺の顔を知っているから、一線引いて接するんだ。だけど楓はそんなこと無くて、少しだけ……嬉しかったんだが……」
土方さんの無理した笑顔に胸がもっと締め付けられる。
「ごめんなさい。今のは凄く動揺しただけです。俺は旦那様が土方さんでも、全然構わないんです!!」
俺は土方さんの手を両手で握り、勢い良く身を乗り出した。
真っ直ぐに土方さんの翡翠色の瞳を見る。
確かに『土方歳三』であったことにとても驚いている。
だけど、それと同時に────
「俺、土方さんが大好きなんです!!生で会えるとか凄すぎて、それで、それで……」
「ちょ、ちょ、ちょぉまて!!落ち着け!!」
一気にまくし立てた俺を土方さんは俺の方を掴んで制した。
「す、好きって……」
「とっても尊敬してるんです!!」
「っ…。あ、ありがとう……?」
土方さんは少し気の抜けたような表情になり、また少し微笑んだ。
「俺は、ちゃんと、他の人と同様に接します」
しっかり、土方さんに断言した。
すると土方さんは、とてもホッとしたようで、表情がとても明るくなった。
「ありがとう楓。きっと俺が慰めなくちゃいけなかったんだろうけど、楓に慰められたな」
大人びた表情の土方さんは、また俺の頭を撫でた。
「三日後。忘れんなよ」
最後に一番強く俺の頭を撫でてからそういった土方さんはスッキリした顔で、門を出て行った。
土方さんの姿は見えなくなり────
「ど、どうしよう俺!?土方歳三に会っちゃったー!!!!!!!」
感涙の声は、夜更けの空に吸い込まれていった。
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