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ミハイルの憂鬱②
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side ミハイル
何を間違えたのだろう…
主君をこのような僻地に連れ去られるまでに、どこかの脱出ルートを確保すべきだった。
このあり得ない失態は陛下を無事に本国に送り届けてから、潔く自決しよう。
俺が生涯賭けて守ってきた陛下に万一の事がなくてもそれすら足りない罪だとは思いつつ…カリフに散々罵ったが、俺が一緒にいてもこのザマだ。
今頃、ザイールやハミドが俺達を助けようと諸国に要請をしているだろうが、彼らに合わせる顔すらない。
警備上不安な場所だからという理由で、あのように襲ってくださいと言わんばかりの道を小さな電車で横断するプランはもっと慎重に回避を考えるべきだった。
珍しく陛下が『こういう小さな車両に乗ったことはないからな、たまにはいいかも知れん。』
と機嫌良く乗りたそうにしており、深く考えずに護衛を減らして次の駅で降りるという1時間にも満たない行程の事だった。
まさか部下の半数が既に敵の手に落ち、我々を拉致する事など想定に無かった。
甘いと言えば甘過ぎた。
せめて陛下だけでもお逃げになれるよう、盾として最後の奉公に向かうつもりでいたら、あろうことか陛下はテロリストと話してみたいと言い出した。
『ミハイルは、気にならんのか。我が国に喧嘩を売る馬鹿の正体が。』
このような状況でも陛下は楽しんでいて、テロリストを怒らせでもしたらと思うと気が気でないが主君命令にはほぼ逆らえない。
車内で敵のトップに会う段取りを取り、お互いに側近一人をつけて話す事にした。
『俺達のクライアントの名は秘すが、ザイールとハミドという二人の息子の商売敵だとでも言っておこう。』
テロリストはかなり面食らった顔で陛下を見ていた。
『ほぉ、俺の息子なぁ…確かにそんな名前だった気がする。ミハイル、人違いでは無さそうだぞ。』
全く陛下は何をお考えなのか、テロリストとの会話を楽しんでいる。バックにいる企業よりもテロリストにいくら貰ったのだ、その3倍払うからザイールでも殺しに行かないかとワケの解らない勧誘すらする始末だ。
聞けば、ザイールの開発した新薬があまりに安価で作れるため、同じかそれよりも低い効能の既存薬を販売していた複数の医薬会社が大打撃を受けたとの事だ。
ハミドの全世界への販売ルートの迅速さも手伝って向こう10年安泰と思われた会社には株主にすら見捨てられ、数万の人間が露頭に迷う事態となったそうだ。
『おとなしくしてくれれば危害は加えない。ザイールやハミドに身代金を要求する事を今考えているとの事だ。』
ビジネスとは弱肉強食でそういうものと心得るが、俺達に向かうのは、八つ当たりというものではないか。
我が国の信用を貶めてまでやりたい復讐がこれとは、幼稚過ぎる。
金の受け渡しは日本でするので、我々を拉致してから目隠しをされて今度は専用の飛行機に乗り日本にくる事になった。
日本にはハミドがいるが、身代金の段取りをつけるまでは俺達も生かされるだろうと緊張を解くことなく陛下のそばに侍っていた。
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