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7月24日。
空は快晴、雲一つない。
毎日通っていた美大も、ついに夏休みに入った。
「え?!親父、ギックリ腰なの!?」
{そうなのよー。一昨日畑仕事してたら急になっちゃって。}
夏休みという事もあってか、渋谷駅は普段よりも混雑していた。
山梨は新幹線が通っていないため、電車を使う他帰る手段がない遥歩は、Suicaを片手に改札を通る。
ホームで電車を待っていると、遥歩はスマートフォンにかかってきた母親、”奈緒子”からの電話に出ていた。
「…はぁ、また無茶したのか。」
{腰が痛い痛いっていうから、今日はやめとけば?って言ったんだけど…あの人、頑固だから。}
「とりあえず、程々にしとけって言っといてよ……あ、そうだ!虎鉄、元気?」
父親の話を終えると、遥歩はずっと聞きたかった事を満面の笑みで奈緒子に尋ねた。
{元気よ。病気も怪我もしてないし。}
「そっか!」
そう言いながら、ドッグフードを詰め込んだリュックを摩った。
すると、新宿駅行の電車がホームに到着した。
ここからは、乗り換えの嵐になる。
{あ、そうだわ。その虎鉄の事なんだけど 「ごめん母さん!電車着いたから切るな?」
奈緒子が何かを言いかけていたが、遥歩は終了ボタンを押して、キャリーケースを手に取り電車に乗り込んだ。
◎
「うわっ…お土産の催促LINEがこんなに…。」
新宿駅でいったん降り、甲府行の特急列車に乗り換えた遥歩は、リクライニングシートに座りながらLINEを開いていた。
少しスマートフォンから目を離していた間に、とんでもない量の通知が届いていて、思わず目を見開く。
実家に帰る事を話した友人は、芦川を入れてもそういないはずだったのだが、どこから聞き付けたのか、同じ学科の友人数十名から「お土産よろ!」「山梨っつったら信玄餅だよな!待ってまーす!」などと言ったメッセージが来ていた。
「…はぁ…金足りるかな…。」
溜息を吐きながらスマートフォンの画面を切り、窓に寄りかかる。
現在の時刻は13時28分。
ここからあと1時間半程経てば、甲府だ。
そう思いながら、遥歩はそのまま瞼を閉じ、眠りに入った。
◎
『じゃあな、虎鉄。行ってきます。』
出来るだけ、笑顔を作って…。
いつもは、目もろくに合わせてくれなかった虎鉄が、東京へ向かおうと、駅の改札を抜けようとしていた俺の事を…じっと、見ていてくれた。
振り返らずとも、それはわかっていた。
その時、どうしようもなく涙が出そうになった事は…よく覚えている。
『…………クゥン…。』
…あの時…いつも俺に吠えてばかりだった虎鉄が…。
悲しげに、小さく鳴いたその声が、微かに聞こえたのも…。
よく…覚えている。
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