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14‐ⅰ
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「た…だいま」
「ん、おかえり」
インターホンを鳴らしてすぐに、乙常がドアを開けて出迎えてくれた。
風呂上がりなのか肩からタオルを下げて、膝丈のスウェットを身につけた姿でドアを押さえている。幸いなことに周りに人はいない。
眞戸は視線をそらしながら中に入り、後ろ手に鉄製のドアを閉めた。
この生活にはまだ慣れない。金属のドアも、誰かのおかえりも。
乙常と久しぶりに会ったあの翌日、彼の部屋のベッドで目を覚ました眞戸は、起きてすぐに彼からある提案をされたのだった。それが、工事が終わるまで一緒に暮らそうというもので、なぜ急にと眞戸は聞いた。
乙常いわく、
゙お前は一人だと自分のことを蔑ろにし過ぎて危なっかしい゙
そうで、目の届くところに居ろと言われたのだ。
引っ越しの荷物は元々ある人の所に預けているし、ホテルに置いてある荷物を持って来るだけで良かった。正直、あの部屋では心から休まることが無かった。
高価で広い部屋は、今までの自分とはほぼ無縁な存在だったのだから。それに、いずれ彼と暮らせればと密かに思っている眞戸にとって、その予行練習のようで実に願ってもいない話だった。もちろん、お願いしますとその時は答えた。
しかし、今思えば軽率に返事をしてしまった自分に、少しばかり嫌気がさしている。
よく、一緒に暮らせば見えなかったものが見えると、少々悪い意味で言われるが、共に過ごせば過ごすほど、彼が自分のことをどれだけ好きなのか、四六時中感じ続けることになり、とても面はゆい。
優しいのも、まめなのも、眞戸のことを好きなのも、普段と何も変わらない。それがとても嬉しかった。
とはいっても、困ったこともあるのだ。
例えば今、こういう状況。
特に意図があってしているわけではないのは分かっている。彼はそのような回りくどい事が出来ない人だ。まぁ、その分タチが悪いのだが…
それにこれは、どちらかというと眞戸の問題の方が大きいだろう。
彼と暮らし始めて三日。
彼が人より少し暑がりなのは知っていた。
いくら八月が終わりかけているとはいえ、気温の変化はそこまで大きくない。だから乙常が風呂上りに短パンにタオルという、上半身を露出した格好で家中を歩き回っていても、何も不自然なことは無い。寧ろ自然な事だ。
それでも眞戸はこの事で困っている。
温泉の時に一度、共に過ごして二度見ているが、慣れるはずがない。温泉の時はまだ付き合ってはいなかったし、好意を持っていたとはいえ、そこまで考えることは無かった。
しかし今はどうだろう。恋人となって四ヶ月。未だキス止まりだがその先を意識していないことは無い。事を急くつもりは毛頭無いが、一度意識してしまうと見方が変わるのも必然であって、彼の体を見る度にそのような事を考えている自分を知られてしまうのが恥ずかしくもあった。
眞戸は手に持った鞄を胸の前に抱き、乙常が作ってくれた寝室内の眞戸スペースへと足早に向かった。
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