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目覚めた圭吾はベッドに横たわったまま、二度まばたきをした。部屋を出てキッチンへ行き、朝食を用意する。一枚のトーストにチーズを被せた。コーヒーへミルクを。砂糖は入れない。食事を済ませてから洗面所に入り顔を洗って、流れのまま髭を剃る。そのあと寝癖を整え、軽く歯磨きをする。部屋に戻って、ティーシャツとはきやすいズボンを着用。
猛は仕事が休みのようで、部屋から出てきていない。まだ寝ているのだろう。
玄関で靴を履いた。同じ種類の靴をふたつ買っていて、ひとつはしまってある。左側の靴底が擦り切れたら修理に出し、その間にスペアを履くので、右側の靴ばかり革が傷んで見える。
玄関を出る前に、まぶたを閉じて、数回深呼吸。そうして圭吾は出勤する。
これらは、猛と同居し始めてから決めた、朝のルール。もう戻らない五年を塗り替えるためのものである。
ここで暮らし始めてから一ヶ月ほどが経過している。家族以外の人と暮らすことは初めてだったので、最初の頃はどんな生活となるのかが不安だったけれど、予想よりも暮らしやすく過ごせている。
彼のマンションは、玄関を開けると短い廊下の右側にトイレ、左側にある洗面所の奥にバスルームがある。廊下の正面のドアから十二帖のリビングダイニングキッチンへ行けて、そこの左側の壁に、間隔を開いてふたつのドアが。それぞれ五帖の洋室に繋がっている。猛は奥、圭吾は手前を自室にしていた。
同居するようになって最初に決めたのは、できる限り一緒に夕食をとることだった。圭吾も猛も料理があまり得意ではなく、鍋やカレーなど簡単なものは作れるけれど、そればかりでは飽きてしまう。だからといってインスタント食品をとり続けるのは身体にあまりよくはないし、出前は食費がかさむ。考えた結果、一緒に夕食を作ることにしたのだ。失敗しても責任は双方にあるから、相手に悪いと思うこともない。
マンションからバイト先まで歩いて五分だ。仕事には大分慣れてきた。いつも冗談を飛ばしてくる拓也と、朗らかな人柄をしている立山。ふたりのいる店は雰囲気がよくて、ついふさぎ込んでしまいがちな気分も自然と晴れる。
道端に紫陽花が咲いている。先日、この地方は梅雨入りした。雨が降ると傘や水溜まりが邪魔になり、足を引きずって歩くことは中々苦労する。晴れの日が続いたら助かるけれど、雨は恵みであるという立場の人からすれば、それは迷惑な願いなのだろう。
花屋にたどり着くと、立山が店の前に立っていた。胸の前で腕を組み、困ったような表情を浮かべている。
「おはようございます。どうかしました?」
立山はため息をついた。
「拓也君がまだ来ていないの。遅刻だけはしない子だったのに……何かあったのかしら」
「連絡もないんですか?」
「ええ。だから、病気や事故の心配をしているの。電話にも出ないし」
「彼の自宅って遠いですかね? 俺が様子を見に行きましょうか」
「そう遠くはないのだけれど、近くの駅から歩いて二十分くらいなのよね」眉を顰めてから、立山は話を続ける。「まぁ、きっと、ごめーんって軽く謝りながら出勤してくるでしょう。さて、仕事、仕事」
店に入る立山の後ろに圭吾も続く。
カウンターで、立山から一枚の紙を渡された。
「そうそう。商店街の近くに神社があるの、知ってた? そこで毎年この時期に、小規模だけれどお祭りをしているのよ。今日がその日で、これはお祭りのチラシ。お友達と行ってみたら?」
「へぇ……小規模っていっても、屋台が出るんですね」
「ほら、猛君とね、息抜きにでも」
立山はにっこり笑っている。
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