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After 8 years:鳴上×凌真
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修弥様の執事兼、秘書の私は、今日も修弥様のお使いに走らされていた。
14年前に人格更生をして、ますます素敵なお人柄を身につけられた修弥様だけれど、ワガママな部分は治っていらっしゃらないようだ。
まあ、そういうところも含めて、私の尊敬する修弥様なのだけれど、『因縁のあるところだから、ちゃんと仲良くなって来いよ!』と、さすがにいきなり接待を申付けるなんて、どういう了見なのだろうと思っていたが。
「これは......あなたなら、仕方がないですね」
「あは、何それー?」
接待のために用意した料亭に先に待っていらっしゃったのは、なんと皇凌真さまだった。
「ご無沙汰しています」
「うん。八年ぶりー」
「お待たせしてしまいましたか?」
「ううん。俺も今来たとこ」
あんな別れ方をしたのに、私たちの間は妙にすっきりしていた。
凌真様に促されて席に着くと、凌真様の横にぐっすりと眠っている小さな男の子が、横たわっている。
「お子様ですか?」
「うん。七歳だよ」
「それは、おめでとうございます」
もうあれからハ年も経っている。
......聞いてもいいのだろうか。私がずっと気がかりに思っていたこと。
「奥様とは......」
凌真様が恐れていたこと。それがずっと気がかりで仕方がなかった。
私の質問に、凌真様は苦笑を漏らす。
「別れた。俺に愛想つかして、出て行っちゃった」
「それは......申し訳ありません」
「いいよー。もう五年前のことだし、気にしてない。やっぱ俺には結婚は向かなかったみたい」
「.......」
どんな気持ちで毎日を過ごしていたのだろうか。
自分を抑え込んで、家のために過ごす日々は辛かったに違いない。
けれど、凌真様は優しく微笑みながらお子様の方を見る。
「でも......奥さんとは上手くいかなかったけど、この子はすごく可愛いって思うんだ。生まれて来てくれて良かったって、心からそう思ってる」
優しく息子の頭を撫でる凌真様は、当たり前なのだろうが、本当に父親のように見えた。
会っていない間に、ずいぶん成長なさった。
それは喜ばしいことなのに、なんだか寂しくも感じる。
私の知っている凌真様がいなくなってしまいようで、少しだけ切ない。
「ねえ鳴上さん。俺はね、最低なことに、ずっと鳴上さんのことを忘れられなかった。あの日したことを、いっときの過ちだとは思えない」
「......」
私だってそうだ。
凌真様のことを考えない日なんてなかった。
それがどんな感情なのか、はっきりとしていなかったけれど、再開した今なら分かる。
「ですが......それは......」
この方に子どもがいる限り、それは叶わない。
この子がいなければいいだなんてことは絶対に思わないけれど、この子がいれば叶わないことなのだ。
「うん。分かってる。この子が成人するまでは、俺は子育てと仕事に専念する。だからそれまで待ってて、鳴上さん」
この方は、やはり意地の悪いお人だ。
こんなにも私の心をかき乱す。
「......っ。その頃には、私は五十を過ぎています。そんな私より、再婚をなさった方が......」
「そんなこと出来ないって、鳴上さんが一番分かってるでしょ。俺はそんな言葉じゃなくて、鳴上さんの気持ちが聞きたい」
私のちっぽけな取り繕いは、すぐに凌真様に壊されてしまう。
私の気持ち.....。
「.......私は」
あの日、凌真様が呟いた言葉に、何の返事も出来なかった。
あの時、本当に意地悪だったのは、私の方だったのかもしれない。
凌真様はいつも私を励ましてくれた。
無気力な見た目とは裏腹に、真剣に私のことを思ってくれていた。
凌真様はいつだって優しかったのだ。
「私は.......凌真様をお慕いしています」
八年越しの返事は、果たして有効なのだろうか。
そんなの考えるまでもなく、凌真様がにこりと笑う。
「そっか。......じゃあ待っててね。鳴上さんにとって、あと13年なんて短いもんでしょ?」
そんなやっぱり意地の悪い言葉にも、今は笑って返すことができる。
「......ええ。いつまでも待っています。想い続けることは得意ですから」
ただ待ち続ける人生だった。
あの大切な方のことを、何年も飽きもせず、ひたすら想って想って、待ち続けた。
それからやっと解放されたと思ったのに、今回もこんなことになるなんて、自分の人生に呆れもするが。
凌真様のためなら、きっとこんな人生も悪くない。
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