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我慢しない
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「、っ、」
そうだ、と言おうとした。
だけど、漏れたのは詰まるような息の音だけ。
決意したつもりだった。
シロでいられなくなってもいい。
でも………それでも。
俺は、シロでいることを捨てられずにいる。
「白亜?」
情報屋は危険な職業だ。
人が知られたくない秘密を手に入れて、それを欲しがる客に金と引き換えに渡す。
売った秘密で、人の人生が崩れることだってある。
当然恨まれるし、利用される。
だから、情報屋は正体を隠さなければいけない。
よほど大きなバックがいない限り、命を狙われる職業だから。
覚悟はしている。
仕方がない、とも思っている。
思っては、いるけれど。
握った拳が細かに震えた。
呼吸が浅くなる。
視界がチカチカと明滅する。
怖い。
俺がシロだとバレるのが。
それで誰かに殺されるのが。
いやだ。
いやだいやだいやだ!
廉 み た い に 殺 さ れ た く な い !
突然腕を引かれて、俺は温かいものに包まれた。
その熱にすら怯えて、ひゅっと喉が鳴る。
「………ごめん。ごめんな」
掠れた声が耳を震わせた。
やめろよ。
罪悪感で潰れそうな声を出すな。
同情で手を震わせるな。
あやまるな。あやまるんじゃない。
これ以上、俺を惨めにさせるな。
「言わないよ。お前がシロだって、誰にも言わない」
温かい手が俺の頭を優しく撫でた。
「お前が傷付くようなことはしない。だから、絶対好きになんないなんて言うなよ」
頭に置かれていた手が、俺の頬をするりと撫でる。
やめろ。触るな。
そう言おうとしたけど、声が出なかった。
俺を見つめる高槻の瞳が、情けないくらいに弱々しい。
いつもの鋭い光がない。
こんな高槻、俺は知らない。
「……好き。ほんとに好き」
高槻の顔が近づいてきて、呆然としている俺の額に熱い唇が触れた。
「だから、嫌いになんないで」
そう言って、高槻は俺の肩に顔をうずめた。
こいつは子供みたいだ。
傷付けたらごめんって謝って、嫌わないでって泣きついて。
傷付けるとわかって言ったんだろ。
俺を脅そうとして、あんな言葉を吐いたんじゃないか。
「……もともと嫌いだ」
強い力で俺を抱き締めている高槻を、思いきり引き剥がした。
無償に腹が立った。
俺を振り回すこいつにも、こいつに振り回されている俺にも。
「いいか。俺はお前が嫌いだ。ああいうことを言われるのはもっと嫌いだ」
そうだ。嫌いなんだよ。
軽はずみな馬鹿の言動が、いつか俺を殺すから。
「だから、金輪際俺に関わるな」
きっと高槻を睨み付けると、琥珀色の瞳が目に入った。
さっきまでの弱々しさは無い。
かわりに、熱の籠った瞳がギラギラと光っている。
「嫌だ」
す、と高槻は足を一歩前に出した。
一歩ずつ、ゆっくり、でも着実に、俺に近づいてくる。
「今さら、もう諦めらんない。絶対に好きって言わせてみせる」
怖いのか何なのか、体はぴくりとも動かない。
せめてもの抵抗に、俺は高槻から目を逸らした。
「ねえ、俺を見て」
顎を掴まれて、強引に高槻の方を向かされる。
熱を内包した琥珀色の瞳が、俺を見つめていた。
「これから毎日好きって言う。キスするし、触るから」
「意味が、わからない」
「いーよ、わかんなくたって。俺がお前を好きってだけだから」
高槻の唇が降りてきて、俺のそれに触れるだけのキスをした。
ちゅ、とわざとらしい音が鳴って、高槻が頬笑む。
諦めが俺の中に広がった。
駄目だ。こいつは駄目だ。
格が違う。もう逃げられない。
それは、絶望にも似た感情。
もう1度唇が重なったかと思うと、高槻の舌が俺の唇をぺろりと舐めた。
反射的に口を閉じると、開けろ、と言わんばかりに舌でつつかれる。
それでも開けないでいると、今度は耳をさわさわと指先で擽られた。
「俺、もう我慢しないわ。ほら、くち、開けて?」
なんだこいつ、さっきまでしょぼくれてた癖に。
突然の理不尽に、じわじわと涙が出てきそうだった。
「や、だっ!」
堪らず高槻の制服に顔をうずめた瞬間、背後から聞き馴れた声がした。
「……白亜か?」
………この声は。
ぎゅっときつく抱き締めてくる高槻に抵抗しながら振り返ると、そこには案の定黎士が立っていた。
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