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しあわせな女の子・・・・5
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「どうも……」
思わず鏡の中の先輩に向かってお辞儀をしてしまった。先輩は何も言わずにやはり鏡の中からボクを見ていた。うっすら笑いながら。
所在なくその視線を避けて、洗面台に脇から回り込み、失礼しますと手を洗う。先輩がそんなボクのハンドドライヤーまでの動線を追っているのに気づかないふりでもう一度頭を下げてトイレを出ようとした矢先。
「ちょっと話さない?」
意外な声がかかって振り返ると、今度は鏡の中ではなく実物の先輩と目があった。
「……はい」
「っていうかさ、この後予定ある?」
「え……ボクですか?」
「も一軒いかない?」
「はぁ……」
先輩……杉田さんのことを、ようやくこの時点でボクは認識した感じ。
なんというか、小作りな顔にバランスのいいパーツが配置され、すらっと背が高く、軽くウェーブのかかった髪の始末、チャコールのスーツにブルーのシャツの着こなし、デフォルト状態でずっと「イケメン」として生きてきた人の嫌味のない余裕を感じる。
同じフロアにいるから話したことはあるんだろうけど、話しかけられたのは今日がたぶん初めてだった。
ボクが「もう一軒」の返事を口にする前に(と言っても何も考えてなかったんだが)杉田さんは、ボクを片腕で個室のドアに押し付けるようにして、そのまま中に体を押し込んだ。
「え……?」
思わずさっきまで座っていた便器につまずき、膝裏を崩しそうになるのを壁に寄りかかることで避ければ、杉田さんはそのままドアを後ろ手に閉め鍵をかけた。そして、ボクに覆いかぶさると壁に両肘をついた。あ……壁ドンされちゃった。
身長差でいえば数センチだが、ずいぶん高い位置から顔を覗き込まれる。
「伊藤……今日俺のことずっと見てたね」
誤解である。
「俺もさ、なんだか意識しちゃったじゃん」
ものすごく顔が近い。
「4月だったかなあ、青山のパーティであっただろ?お互い知らんぷりしたけど」
青山のパーティは思い当たるが、杉田さんがいたなんてまったく知らない。でも、ああ、そういうことか。広い意味でのお仲間なんだ、この先輩。
お酒の匂いの吐息が耳に触れる。杉田さんの右手が、そーっとボクのジャケットをかき分けシャツの上を滑り始める。同じ会社の人間にボクは今口説かれているらしい。
同じ会社に、ボクの存在に気づいた人がいる。
心臓音がドキドキと早くなる。先輩の指にその振動が伝わってるんじゃないかと恥ずかしい。
その指がボクの乳首を探り当てた時「……!」先輩の目が大きくなり、ボクを見つめ嬉しそうに笑った。
ゆるゆると胸を撫で付けられ、ボクはとても困ってしまった。やめてくださいって言うべきなんだろうか。でも嫌な感じじゃない。反射的に両肩が前に出て身をすくめる姿勢になったけど、ボクったら「ああ、今日はブラしてなくってよかった」って思ったんだ。
杉田さんの指が、シャツ越しに確実にボクのぷっくりとした乳首を確認しているのを感じながら、うつむいて黙っていると、弾む息で耳元に囁かれた。
「ねえ……行く?」
「え……イクって……」
「ホテル……」
「……」
お腹の奥がゾクゾクっとする。
なんかこういうの久しぶりだ。つまり……一夜限りの……っていう。
ボクが顔を上げられないでいると、杉田さんはこういう駆け引きに慣れてる感じでポンポンっとボクのジャケットを整え、先にトイレを出て行った。
たぶん、ボク、同意したことになったんだな。
ぼんやりとそう思いながら、ボクもトイレを後にした。
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