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暴君の失態11
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皆すでに入浴は済ませていたので、眠くなるまでお菓子を食べてだらだらと過ごす。
小鳥が幸に卵ボーロを与えているのを和やかに眺めつつ、臣は気になっていたことを切り出した。
「今更だけど、小鳥が家出して尊さんが大人しくしてるわけないよな?こんなのんびりしてて大丈夫なのか?」
小鳥がアクアの家に居ることは知られている。
仕事が終わったら乗り込んでくるのではないだろうか。
「そうよね。それに、静かなのも何だか気味が悪いわ。尊さんから、鬼のように電話がかかってきて小鳥の携帯鳴りっぱなしって状況を想定してたんだけど…」
美羅も、小鳥の家出なんてとんでもない事態にもかかわらず、やけに落ち着いて過ごせている現状を不思議に思っていたようだ。
「電話は、たくさんかかってきた。」
「あらやっぱり。それで、どうしたの?」
「どうもしなかった。出なかったらひたすら電話が続いて…電池が、切れた。」
小鳥が、画面の真っ暗になった携帯をポケットから取り出す。
充電器は家に忘れてきたらしい。
「そしたらねー、今度は私の携帯に電話ラッシュ!」
小鳥の携帯が繋がらないのならば、まあ次の矛先がアクアに向かうのは当然だ。
「アクアは電話に出たのか?」
今はアクアの携帯も鳴ってない。あの尊が無視され続けたからといって諦めるとは思えないので、何かしらやりとりがあったのだろう。
「出たよー。ことりん迎えに来るって言ってきかないから、来てもことりんは渡しませんって宣言した!」
そう言ったアクアは、バックにキラカラと星が飛びかっていそうな、それはそれは良い笑顔だった。
もし尊が来ても絶対に家に入れないようガードマンにも手引き済みらしい。
アクアが、こうも頑なに相手の意思を拒絶するような態度をとるのは珍しい。
もちろん尊と小鳥では、小鳥の方を贔屓するだろうが、いつもならとりあえずは二人を会わせるくらいはするだろうに。
「アクア、もしかしてかなり怒ってるか?」
「うん!」
またしても、キラッキラの星が舞う良い笑顔。
きっとアクアは喧嘩の理由を知っているのだろう。
そして、ずいぶんと尊に腹をたてている。
「でも、尊さんならガード突破してきちゃうんじゃない?」
「確かにな。」
美羅の意見はもっともだ。龍宮家の警備は一流であるが、何しろ相手は完璧超人の清峰尊だ。
小鳥が関わっているいじょう、あらゆる手段を駆使して何とかしてしまいそうな気がする。
「…大丈夫だ。今日尊は、ここには来ない。」
「ことりんが交渉したからねー。」
不服そうに、アクアが眉を潜める。
「明日には帰るって、アクアの携帯からlineを送った。」
「あー、成る程。家出の期限が分かったから尊さん大人しくなったのか。」
「…いつ帰ってくるんだって、lineと留守電が、本当にしつこかった。」
携帯が鳴り止まなかった時のことを思い出したのか、小鳥がぐったりと呟く。
「お疲れ様。」
苦笑して労うように頭を撫でると、小鳥は隣に置いていた殿下にもたれ掛かるようにして、ズルズルとソファーに沈んだ。
「気のすむまでいてくれていいのにー。」
「ありがとう。でも、学校始まるから。」
小鳥が手を伸ばし、むうぅと唸るアクアの頭を撫でて宥める。
「歩きだと家からじゃ学校遠いもんねぇ。」
アクアは車で通学しているが、小鳥は車に乗れない。
アクアの家から学校までは歩くと30分。歩けない距離ではないが通学するにはやはり不便だ。
「あら、通学に時間がかかることを気にしてるなら、小鳥は自転車で送り迎えするわよ?臣が。」
「俺かよ。」
美羅の突然の提案に、当然のように自分の協力が組み込まれていて苦笑する。
「何か不満が?」
優雅に微笑みながら美羅に問われれば、臣の答えは決まっている。
「ないな。」
不満など、あるはずがない。
笑顔で答えた臣に、美羅も満足そうに笑った。
臣と美羅には、今回小鳥が尊と喧嘩した理由は分からない。
だが、理由を知っているアクアがこうも尊に敵対的なのだ。臣と美羅が小鳥の味方につくのに、それ以上の理由など必要ない。
自分達四人はとても仲が良いし、お互い大切に思っているが、小鳥とアクアには二人だけの世界がある。
二人の物事の捉え方は独創的で、その考えは、他の多くの人間には理解できない。
少し嫌な言い方になってしまうが、二人は普通の人間とは見ている世界が違うのだ。
だから、言っても受け入れられない…言うべきではないと思う事柄については、臣と美羅に話さないことが時々ある。
それを寂しく思ったり、どうして話してくれないのかと憤ったこともあったが、臣も美羅も今は納得している。
全てを話せる友人というのは、もちろん素晴らしいものだと思う。
けれど、全てを話せない友人は、尊くないのだろうか。
そんな事は、ないと思う。
話せないのには、話せないなりの理由があるのだ。
小鳥とアクアの気持ちを無視して、隠したがっていることまで暴く必要はない。
二人が何か隠していて、それが何かは分からなくても、臣と美羅へ悪意があって隠し事をしているわけではないことだけは、はっきり分かる。
それさえ分かっていれば、十分だ。
多少の秘密があった所で、この友情が揺らぐことなどないのだから。
どんな問題を抱えているのか分からなくても、せめて側で見守りたいと思う。
もし自分に出来ることがあるのなら、力になれればと、臣と美羅は思っている。
「もしまだ小鳥が家に帰りたくないなら、学校への送り迎えくらいいくらでもするぞ?」
「それか、明日は家に泊まりに来くればいいわ。家から学校も少し距離はあるけど、アクアの家からよりは近いし。」
ぼーっとのびのび生きているように見えて、実は何かと抱え込みがちな目の前の大切な友人に、美羅とこぞって声を掛ける。
少しでも小鳥の憂いが晴れるなら、美羅も臣も協力は惜しまない。
「…臣も美羅も、俺を甘やかしすぎだと思う。」
「小鳥見てると、甘やかしたくなるんだよ。」
「…あんまり甘やかすと、バカになるぞ。」
「小鳥は色々考えすぎだし我慢しすぎだから、チョットくらいバカになった方がちょうどいいわよ。」
嬉しいような、困ったような、そんな複雑な顔をして、小鳥が殿下を抱き締める。
「心強い味方がいっぱいだね!ことりんっ!」
アクアが明るく笑って、小鳥に抱きついた。
そうして、穏やかな空気でパジャマパーティーの夜は更けていって。
朝起きたらもう一度、小鳥の家出をサポートすべく作戦を立てようと言って眠りについたのだが・・・・
翌日、早朝6時に尊が迎えにやって来て、小鳥の家出はあっけなく終わったのだった。
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