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冬、訪れた変貌 第三章 ①
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どこか、薄ら笑いを浮かべている秋人。否、もはやそれは天野だった。
対峙しているのは、七人。秀をのぞいて、全員がそこにいた。
まさかわざわざ、全員がともにいる時を、狙ってやってくるとは、思いもしなかった。
それだけ天野は、自分を過信しているのだろう。
それだけ、驕っているのだろう。
だから、何も気付いていないのだ。こちらの真意に。
「おや、一人足りないねぇ。まぁ、良いや。誰から、死にたい?」
秋人の声で、残酷なことを平気で口にする。
「誰も、死ぬ気はありません」
正が静かに答えた。
誰も、死なない。それは、秋人も同じ。死なせない。
「へぇ。ずいぶんと、強気だね。この体を殺してでも、生きるっていうことかな?」
自身を守る為に、秋人を殺されるわけには、いかないのだが。簡単に屈しなかったのは、褒めてあげよう。
とでも言うように、天野は呑気に笑っている。
スパーン
音が鳴った。
出所は、太一の投げたナイフ。綺麗に天野の結界に弾かれたのだが。
「くくくくく。抵抗するなら、全力でやってみなよ。じゃないとつまらないからね」
天野は楽しそうに、自身の力を投げつけてきた。
それは、章と純の結界に阻まれて、こちらまではこなかった。
「章、そのまま結界の維持を。無理だけはしないように」
正が章に言う。純には目線で章の傍にいろ、と伝える。
純からは、頷きが返ってきた。
「勇、こっから、動くぞ」
聖が勇を連れて、場所を移動する。
亜希羅は太一と移動した。
天野を正面から見ているのは、章と純と正。左側に聖と勇。右側に亜希羅と太一。
「へぇ、やる気だね」
楽しそうに、天野はその布陣を見る。
一見、守りが正面だけに見えるが。その実、守りは全体に行き届いている。
勇が章からの呪符を、太一が純からの呪符を受け取っているのだ。
相手が七人いようと、委縮した様子もない。自分の絶対有利を、疑ってもいない男。
そうでなければ、わざわざ七人でいるところを、狙ってはこなかっただろう。
七人とも、接近戦を避ける動きだ。
だが、遠距離攻撃は、味方に当たる可能性もある。だからこその守りだった。
天野からの攻撃からの、守りもたしかにあるのだが。それだけじゃない。
スパーン
再度音が鳴る。
「同じことの繰り返しは、つまらないだろ」
そう言いながら、簡単に太一のナイフを受け止めて、投げた本人に投げ返す。
そのナイフを結界が弾く。
聖と勇からの遠距離からの刃。聖のは真っ直ぐ貫き、勇のはうねって叩きつけられる。
勇の力は片手で弾き、聖の力は飛び上がることで避けられた。
飛んだ天野に、亜希羅の力が迫る。次いで、太一のナイフ。
しかし、両方とも、片手技で避けられた。
「あはははは。良いね。この体は、本当に良い。こんなにも、軽々と僕の力を出せるのは、本当にいつぶりだろう」
心底楽しそうに、地面に下りた天野は笑う。
誰一人として、攻撃の手を緩めはしなかったが。
すべて避けるか、弾かれるか。
正は戦況を見ているだけで、動きはしなかった。
時間稼ぎなら、四人の攻撃だけで充分だ。正が待っているのは、秀。秀が最大限に動くことができるようにするために、正は今は動かない。
動かない正を見て、天野が笑う。
「君は高みの見物かい?」
四人だけじゃ物足りないとでも言うように。
実を言えば、四人とも本気で攻撃はしていない。さずがに、抵抗しろと言った手前、亜希羅の攻撃は容赦ないように見えるが。その実本気を出してはいないのだ。
「亜希羅」
静かに正は妹を呼ぶ。
呼応した亜希羅の力が跳ね上がった。
「へぇ、妹に、責を負わせるとは。さすが中条だ」
亜希羅は、正が自分を呼んだ理由をしっかりわかっている。
だから、天野に何を言われようと、動きを変えない。
正が待つと同じように、彼女も弟を待っているのだ。その為の時間稼ぎが必要、とたしかに言った。
正が、秀が動けるようにサポートに回る為に、今回の戦いに加わっていないという理由もわかっている。
だから、天野に何を言われても、正も亜希羅も揺るがなかった。
他のメンバーも同じ。正と亜希羅、そして秀を信じているからこそ、揺るがない。
「冒涜が過ぎる」
聖が、吐き捨てるように言う。
だがその言葉に、天野は何の反応もしなかった。
天野は中条を、軽視しているわけではない。この中で軽視できない存在だと、認識はしている。
何故、彼が攻撃を仕掛けてこないのか。そこは天野の中に、わかりやすい違和感として出ているのだ。
「何を、考えている?」
簡単に避けられる攻撃など、どうでも良い。
ただ、気になるのは、中条の動き。
一度だけとはいえ、彼の攻撃を前の体で受けている。
彼は、唯一自分と対等にあれる存在だと、感じていた。それなのに、攻撃を仕掛けてくるのは他の人間だち。彼は静かに立っているだけ。
彼が静かに、何かの術をかけている様子もない。ただ、本当に立っているだけなのだ。
彼への攻撃は、彼の後ろにいる守りの存在が、全て無効にしている。彼は、避ける様子さえ見せない。
ウザったい、とでも言うように、天野は周りにいた四人に、一気に攻撃した。
二人ほど吹っ飛んだようだが、さすがは中条のただ一人の女。それから分家の一人は踏み止まった。
守りの呪符を持っていたはずの、二人が吹っ飛んだことで、中条の後ろの守りの二人が一瞬驚いた顔をした。
「何を、考えている?」
再度、天野は中条に尋ねる。
こちらはまだ、本気ではない。本気であったなら、先程吹っ飛んだ二人は、立ち上がることなどできなくなっている。
ふらりと立ち上がり、また元の位置に戻る二人を横目に見ながら、天野は正を見続けた。
吹き飛ばされた二人も、踏みとどまった二人も、どちらも怪我を負っている。
それなのに、中条は動かない。
質問にも、答えない。
強固な結界の中、静かに戦況を見守っている。
「何かあるとするなら、ここにいない、中条の末子か」
思い付いたように、天野は言葉を発した。
誰も、何も返さなかった。動揺さえみせない。それが逆に、天野に確信を与えた。
「なるほど。何らかの対策があるのか」
面白いと、嗤う。
何かの対抗策を見付けたとして、それでどうする?
僕は僕のままだ。変わりやしない。この体は、すでに僕のものなのだから!
「あわれだねぇ。弟に、責を負わせるか」
冒涜だと、先程分家の一人が言ったが。そんなことはどうでも良い。冒涜だと、思ってもいないのだから。
「責を負うとか、負わないとか。負わせるとかそんなこと、誰も思っちゃいない」
かかった声は、ここにはいない人間のもの。
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