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聞きたいこと -9
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「かわいいなぁ、、」
ガラス越しに白いトイプードルが
短い尻尾を振りながらこちらを見ている。
行く予定はなかったが、途中にある
ペットショップに寄った。
犬や猫が好きなら、ペットショップの前を
素通りすることはできまい。
秀馬の家ではシェパードを飼っているらしく、
小型犬も飼いたいとよく言っていた。
が、俺は犬は勿論だが、猫が大好きなのだ。
決して人の前では見せないようにしているが、
猫を前にすると体の力が抜けて、
にゃーんとか言いながら撫でてしまう。
だってもふもふしてぇじゃん!!!
世の中であんな可愛い生命体を
俺は知らないね!!!!駆除く!
俺のそんな側面を知っているのも駆だけ。
あぁ、また駆だ。
どんだけ好きなんだよ、俺。
「よかったら撫でてみますかー?」
秀馬がどうにかしてこの子を飼えないかと
財布とにらめっこしていると、
明るい声の店員さんがやってきた。
ん?なんか聞き覚えが、
「え!いいんすか!」
秀馬にしては珍しく目を輝かせて
幼稚園児のようなテンションになっている。
全く、動物は人の人格を変えるよな…。
「はい、お客様にとっても懐いていらっしゃる
ようなので……って達くん??」
「え……、あっ、くるみ」
聞き覚えのある声の正体は、
元カノの大橋くるみだった。
「おー大橋さんじゃん!
そっかー付き合ってたの懐かしいなぁ」
「もー乙桐くん、恥ずかしいからやめてよ」
くるみとは去年の夏から、雪が降る頃まで
付き合っていた。俺には珍しく告白を
受けたのは、彼女の芯から滲み出る
性格の良さと、感じの良いナチュラルメイクの
可愛らしい顔に少し惹かれていたから。
そして駆のことを忘れるため。
「久しぶりだな、何組だっけ」
「私は8組だよー、ちょっと遠いもんね」
でも彼女は人としてできているからこそ、
俺の幸せを願って俺に別れを告げた。
あの時の彼女の言葉を俺は忘れない。
『達くんは、多分私のことを好きって
思ってくれてると思う。それは伝わるよ。
だけどね、達くんの瞳の奥には、いつも
別の何かが映ってる気がするんだ。
だから、私は一番になれない、って。
それにね、達くんがそんな顔してると、
私まで寂しくなってくるんだよ。
だっていつも届かない何かを見てる感じで…
こんなにカッコよくて完璧な達くんでも
叶えるのが難しいことなんだなって感じるの。
…違ったらごめんなんだけど、きっとそれは
普通の恋ではない、よね?具体的には
分かんないけど、きっと大きな壁があるんだよ。
だからこそ達くんは届かないその人を、
遥か先を、見つめてるんだなって。
だからね、私たちは一緒にいたら、
ちょっとは幸せになれると思うけど、
最高の幸せ、には辿り着けないかなって。
…そんな顔しないでよ、私は達くんの
幸せそうな顔が見たいの!応援してるから
絶対その恋叶えてね!』
ごめんくるみ、俺はその恋を叶えるわけには
いかないんだ。俺は幸せになれない。
一時期、そうなんども反芻していた。
でも、そんなに俺のことを、
一緒にいる間も別の相手のことばかりを
考えていた俺のことを、こんなにも想って
くれていたくるみには幸せになってほしいと、
ただそう願っていた。
そう考えている間にくるみは
ガラスの向こうからその白いトイプードルを
抱っこして連れてきた。
「わあああ可愛い、、」
くりっとした黒い目が、LEDの光を
反射して煌めいている。
「乙桐くん、犬が好きなんて意外だなあ」
「えーっと、まあ、飼ってるんだ」
「あ、そうだったんだ!じゃあ扱いとかも
大丈夫だよねー。ほら、優しく撫でてあげて!」
そう言ってくるみはトイプードルを
机の上の、クッションのような場所に座らせた。
「うわっ、もこもこがやべー」
「ふふっ、この子普段は臆病だから
人に懐くなんて珍しいんだよ?」
結局、その場で買うことは流石に
出来なかったが、「前向きに検討します!」
と秀馬は気分ルンルンで店を出た。
俺が店を出ようとした時、くるみが
「上手くいったら、教えてね」
と小さな声で囁いて微笑んだ。
また胸がキュッと締め付けられる。
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