アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
聞きたいこと -19
-
濡れた地面は思っていたよりも滑りやすく、
何度も体制を崩しながら足を前へ運ぶ。
今日の雨は、なんだか冷たい。
まるで何もない空っぽな心の中の
内壁を伝って、徐々に身体を
凍らせていくような、そんな雨だった。
激しい雨は白い霧のようになって
視界を塞ぐ。達の背中はかなり先にあった。
学校の玄関から正門までは直線の道に
なっている。普段は多くの生徒で賑わうが、
こんな雨の中で立ち止まっている者は
一人としていなかった。
中央に並ぶプラタナスの並木が
視界の端を何度も通り過ぎる。
俺は今、何を思って達を追いかけて
いるのだろう。追いついてどうする
つもりなのだろう。
分からないが、今俺の中にあるのは
達を抱き締めたいということだった。
達がどれほど雨に濡れるのが苦手かを、
俺はよく知っている。一時期は湯船やプール
に入る時でさえ、かなり怯えていた。
でも達は自分がそんなキャラではないって
分かっていたから、いつものように平気な
顔をしてた。
でも雨だけは違った。
雨がなければ達の猫は死ななかった。
雨がなければあそこまで血が広がった
無残な死に様にはならなかった。
なによりも、あの日もどしゃ降りの
雨だったから、背中に冷たい雨を受ける
その感覚は、あまりにもあの瞬間と
リンクしているのだ。
達にとって雨の中を走るということは
トラウマを背中に思いっきり受ける
ということだ。
そう思って走っていたら、
いつのまにか達の背中を見失った。
しかし、とりあえず足を進める。
しばらくは一本道が続くので
前方に進んだとしか考えられないのだ。
さらにスピードを上げて、
転ばないように走り続ける。
もうすぐで門が見えてくる、
という時だった。
「……達!!!」
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
52 / 57