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紅葉の季節 5
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「客の平均年齢は明らかに高いね」
席に着くと、浅黄はホールの客席をぐるりと見回して言った。
「20代男性はお前だけじゃないか?」
「友達のコンサートの時は、もう少し、同年代がいたけどなあ」
「それは客が友人か家族だからだろ」
綾倉がそう返したとき、通路から「あっ!」という声がし、二人は声がした方を見た。
30代半ばの男が綾倉を見ていた。
「久しぶりだな」
綾倉は驚いた様子でそう言うと、立ち上がり、通路にいる男の方に向かった。
そんな綾倉を見て、相手の男は微笑んだ。
そしてそのまま、二人は連れ立ってロビーへと向かった。
開演5分前のブザーが鳴っても綾倉は戻らず、場内が暗くなり、浅黄がまさか、置いて行かれたんじゃないだろうなと不安になり始めたころに戻ってきた。
綾倉からは先ほどの男性の説明はない。
仕事関係か、友人かわからないが、まだまだ、堂々と浅黄を紹介するのは難しいだろう。
どういう関係か聞かれたら、なんて答えるのだろうと考えた。
ただ、仕事帰りの綾倉はスーツ姿で、自分はラフな格好だったので、相手は自分が綾倉の連れだとは思わなかったかもしれない。
コンサートが終わって、ホールを出たところで、さっきの男性が待っていた。
「せっかくだから、どこかでゆっくり話さないか」
「そうだな。じゃあ、悪いが彼と食事して帰る」
浅黄にそう言うと、相手の男の方に向かった。
相手の男は浅黄に会釈すると、綾倉と共に背中を向けた。
「でも一体、何だって、君がこんな初心者向けのコンサートに来たんだ?」
「それは自分だってそうだろ」
「僕は君が来てる気がして来てみたんだよ。君は?」
冗談めかして言う相手の言葉に、綾倉の答えが聞こえる前に、二人の姿は遠ざかっていた。
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