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紅葉の季節 6
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家に帰ると、藤原がいた。
「綾倉さんは知り合いに会って、その人と食事して帰るって」
「じゃあ、無事に会えたんだな」
「どういうこと?」
「その相手から私のところに連絡があったんだ。
行き先を告げたら、会いに行くって言ってたからね。
綾倉様は驚いてた?」
「とても」
「そうだろうな。10年ぶりぐらいだからな」
藤原は、一拍置いてから、静かに付け足した。
「二人は付き合ってたんだ」
「え?」
「7年ぐらいね」
その長さは、浅黄を少なからず打ちのめした。
「綾倉様が大学を卒業したばかりの頃に入会した乗馬クラブで出会ったんだ。
乗馬という趣味も一緒だし、音楽や食事の好みも合ってたし、本当に仲が良くてね。
謙一郎さんは、品があって、知的で、とてもお似合いだったよ」
藤原が、綾倉と浅黄の関係を気に入らないということは、浅黄は本人から聞かなくてもわかっていた。
だからといって、こんな話を大人しく聞かされ続ける気はない。
「でも、結局、別れちゃったんだろ」
「残念ながらね。
謙一郎さんが海外勤務になって、離れちゃったからかな。
あの時は、綾倉様は相当ダメージを受けていた。
彼と別れてからだよ。
君のような、使い捨ての相手と遊び始めたのは」
「使い捨て」
浅黄は、やっぱり、こいつとはだめだと思いながら、藤原の失礼な物言いを繰り返した。
「ああ、そうか。『かつてのような』と言うべきだったね。
気に障ったなら悪かったね。
謙一郎さんのことを綾倉様に伝えようと思ってきたんだ。
会えたのなら、用はない。
じゃあ、失礼するよ」
藤原は、部屋を一歩出たところで立ち止まり、振り返った。
「君には悪いけど、もし、二人のうちどちらかでも、よりを戻したいと言ったら、私は全面的に協力するつもりだ」
「ご自由に」
謙一郎のことを綾倉に伝えるのなら、電話かメールで済む話だ。
もしかしたら、二人が会えたことを知りながら、ここに来たのかもしれない。
謙一郎のことを伝えたかったのは、綾倉にではなく、自分にだったのだろうと浅黄は推測した。
たいてい、自分が嫌っている相手は、相手も自分のことを嫌っているものだ。
浅黄が付き合っているのは綾倉であって藤原ではない。
だから、藤原が自分にどんな態度を取ってもかまわない。
それでも、時々、他の人を雇ってくれたらと思う時がある。
その晩綾倉は、日付が変わるころに帰ってきた。
綾倉からは、謙一郎の話は何もなかった。
自分から聞くと、気にしていると思われるのが嫌で聞かなかった。
実際は、気にしていたのだが。
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