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Ⅸ
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一つの墓石の前で俺は立ち止まった。刻まれた織部家の文字と、その裏に書かれたあの人の名前。
やっぱり、俺とあの人は「運命の相手」だったんだろう。じゃなきゃ、こんなに強く惹かれない。
「……やっと、あんたに会えた」
冷たい墓石に触れながら、俺は泣いていた。やっと俺は織部と会う事が出来た。
ぼろぼろ流れる涙が冷たくて、酷く寒い。吹き抜ける風も冷たかった。
「やっぱり、ここにいたんだ」
岡本さんは俺が墓を見つけた事にも驚かなかった。俺の隣にしゃがみこんで手を合わせていた。
墓石の冷たさが、この世にもう織部がいない事実を再確認させた。
こんなに惹かれるのに、あんたの眠る墓石が教えられなくても分かるくらいなのに。
それでも、もうあんたはいない。
「織部さん、彼。大学に合格したんだそうですよ」
ここでマンガみたいに、小説みたいに。
俺の前に幽霊でも何でもいいから現れて「そうなんだ」と笑ってくれたらどんなに良かっただろう。
でも待っていても、そんな事にはならない。死んだ人は戻ってこない。
「……雪人?」
薫の声がした。岡本さんが「薫さん……」と声をかけた。
俺が泣いているのに気付いて、薫は俺の頭を撫でた。
「兄さんの所にいるなんてね。……君に教えた覚えはないから、貴方が連れてきたのかな」
「そうです。今日は彼が大学に合格したそうなので」
「だからってこんな所に連れてこなくてもいいだろうに。雪人、おめでとう」
「兄さんも喜んでるんじゃないかな」と薫は言って空を見上げてた。
薫がどうしてここにいるんだろう、彼岸でもないのに。そう思っていると、薫は言った。
「今日は兄さんの誕生日だからね。誕生日に雪人が合格するなんて、これ以上の幸せはないと思うよ」
「……そう、かな」
「少なくとも、僕ならそうだな」
そうだと、いいな……。なあ、織部。あんたも、薫と同じ考えかな?
俺は幸せだよ。あんたの誕生日に、俺が合格出来て。
「…………兄さん、ずるいなあ」
「何か、言った?薫」
「何も言ってないよ、雪人」
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