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俺と西永はルームメイトでもあった。
西永が「詳細はあとで折原から聞く」と言ったのはそれに起因してのことだろう。
西永をただ待つのも手持ち無沙汰なので軽く風呂に入ることにした。シャワーを浴び、ものの五分ほどで再びリビングへと戻る。季節の移り変わりとともに上昇している外気温に辟易し、上半身は裸のまま、窓を開けて涼む。暖めた身体を冷やす無駄な行為だが、今年も暑さにだけは勝てそうもなかった。
生ぬるい風が頬を凪ぐ。
玄関から響いてきた扉の開閉音が西永の帰宅を告げた。
「……おかえり」
「ああ、ただいま」
西永が自分の部屋に鞄を置きに行っている間、俺はソファーに座って大人しくヤツを待つことにした。
誤解こそ招きそうな状況だったが、西永なら話せば分かってくれるだろう。
確信にも似た推測を胸に抱いていれば、部屋から戻った西永が背後から近づいてくる。
――と、足音が急に止んだ。
「西永……?」
不審に思って振り返れば、そこにはただ立ち尽くす西永の姿が。
西永は普段、とてつもなく無愛想な顔をしている。感情表現が下手くそというよりは感情の起伏が薄いだけのような印象を受ける。とはいっても、笑うときはちゃんと笑うし、真顔で冗談だって言ってのける。
――なのに。
立ち尽くす西永は、ただただ無表情だった。
双眸だけが射抜くように俺を見つめていて、思わず身動ぎをする。息が詰まりそうだった。西永は怒っているようにも見えた。
怖いと、思った。
動けずにいれば、近付いてきた西永に腕を掴まれ、引きずるように無理矢理歩かされた。
「っ、……西、永?」
返答はない。
何を言っても無駄なのだと、腕に食い込む西永の指が代弁しているようだった。
西永は乱暴に自室の扉を開けると、らしくないほど強引に俺を投げ飛ばした。
「っあ……!」
ベッドに腰を打つと、スプリングの浮き沈みがギシギシと悲鳴をあげる。
すべてを断ち切るような、そんな扉を閉める音が響いて。俺は思わず肩を震わせた。
「西、永……?」
冗談を言っておちゃらけることさえ許されない雰囲気だった。
西永は無言で俺に近付くと、自分もベッドに乗り上げた。ギシリギシリ、悲鳴とともに俺を追いつめる。得も言われぬ西永への恐怖に後退りしていれば、背中に冷たい壁の感触――。
「あ……」
逃げ場がないことに絶望していれば、俺の顔の横で西永の腕が壁を突いた。どうやったって逃がす気はないらしい。
何が西永を怒らせた?
俺が西永を失望させたからか?
でもこれから話を聞くって言ったのは西永の方だろ?
――西永は、何がしたい?
胸中でぐるぐると渦巻く疑念や懐疑心。いくら考えたところでイレギュラーな西永の行動の真相にはたどり着けなかった。
なんにせよ、今の西永は見たくなかった。
頑なに顔を逸らしていれば、西永はもう片方の手で俺の顎を掴んで、無理矢理自分の方へと向かせた。
「……もう一度、風紀委員として問う」
西永はいつも通り、いやいつも以上に落ち着いた声音で俺に話しかける。自分の睫毛が震えているのが分かった。そっと西永を窺い見れば、西永は目を細めて俺を見ていた。
「あそこで佐保と何をしていた?」
「なんも、してねえよ」
こればかりは事実でしかない。睨み付けるように西永にそう言ってやれば、「そうか」ヤツは淡々とした口調で俺を認めた。
西永の態度に拍子抜けする。
佐保とのことを怒っているんじゃなかったのか……?
「それでは、今からはまったくの私情だ」
「? ――っう!」
壁際に追い詰められていた体勢から一転、今度はうつ伏せに倒される。西永の枕に顔を埋めるような形になった。呼吸をするのにやや不便で、懸命に顔をあげる。
西永はそんなことはお構い無しとでも言うように俺の背に覆い被さってきた。顔の横で両手を固定され、とうとう身動きすら出来なくなる。
さすがに洒落にならない。
必死に顔をあげ、首を捻って後ろを向くが、角度的に西永の顔はまったく見えない。
「なにす、んだよ!」
「ただの私情と言っただろう」
嘆息とともに、カシャ、とシャッター音が聞こえた。
何かと思って眉根を寄せていれば、ずいっと突き出された携帯の画面。訳が分からず、俺は一気に混乱した。
「は……」
「何もなければキスマークなどつかないんだがな」
俺の首筋らしいそこに浮かび上がる、鬱血した赤い華――。
禍々しい誰かの意思が、確実に俺を蝕んでいた。
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