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なんとか学校に到着したはいいものの、時間的に言えば完全なる遅刻だった。
起きたときにはすでにそんな時間帯だったので、もちろんリビングに西永がいるわけもなく。ひそかに安堵しながらもいちいち西永の存在を気にかけている自分に嫌気が差した。
西永のことを避けるつもりはないが、俺自身が落ち着くまではそれとなく距離を取った方がいいように思えた。
親友が、ホモで。
ノンケの俺が、襲われたなんて。
純然たる事実、もうどうやったって揺るがないそれに、どうやら俺は俺が思っている以上に衝撃を受けているらしかった。
俺の足は教室ではなく屋上へと向かう。階段を登るのがこんなにつらいとは思わなかった。健康体というものはそれだけで価値がある。健康食品のコマーシャルがやけに多いのも今なら頷ける。気がする。そうやって思考を遊ばせていればいつの間にか最上階に到達しているというマジックが起こる。
扉は侵入者を拒むようにどっしりと構えていた。重い鉄製の扉に体当たりをするようにして開いていく。ズズズ、キキィ。耳障りな金属音が辺りに響き渡る。俺は眉根を寄せた。不快なことはとことん重なるらしい。
すこし空いた隙間から身を滑り込ませるようにして屋上へと足を踏み入れる。
抜けるような青空が俺を見下ろした。
雲一つないところが嫌みったらしい。卑屈になっている証拠だ。否応なしに射し込む日差しが眩しくて目を細めた。
――と。
「っあ……ん!」
「…………」
およそ爽やかな空とは似つかわしくない背徳的な声が聞こえてきて、俺はさらに目を細めた。
特にそれが聞き覚えのある声だったことにげっそりとする。
俺の足は自然と扉の方へと後戻りするが、三歩後退したところで風紀委員としての責務が甦った。いつかの委員長から発生した黒い圧力が俺の足下で渦巻くようだった。
俺は腹を括って声のする方へと歩みを進める。
「っ、んぅ!」
「声出すなっつってんだろーが!」
「ぁ……!!」
近づけば近づくほどに気持ちが冷えていく。お天道様の下でナニやってんだクソ野郎共。
奴らが“行為”に及んでいるのは入り口のちょうど裏側だった。
角を曲がってまず目に飛び込んできたのが野郎のケツだった。げえ。相手をよく見ないまま反射的に足刀蹴りを繰り出す。この際下半身の痛みには無視を決めこむ。骨が骨にめり込む感触、骨盤辺りだと予想。ケツがふっ飛んでフェンスに激突し、大袈裟なまでに派手な音を立てながらそれを揺らした。
「っぐあ!!」
一物を丸出しにしたままぐったりと金網に寄りかかるのは見たことのない顔の男だった。となるとおそらく新入生辺りだろう。入学早々サボって屋上セックスとはいいご身分だな。まあ大方もう一人に唆されたんだろうが。
俺は男の顔の横すれすれを蹴りつける。「ひっ!」男とフェンスが悲鳴をあげた。ちなみに俺の下半身も悲鳴をあげている。
「風紀委員の折原だ。お前の顔は覚えた。あとは委員長の采配次第だが、なんにせよ覚悟は決めておくんだな。つーわけで――失せろ」
俺がそう言うなり、男は顔を真っ青にして、下がる自分のズボンを押さえつけながら走り去った。新入生といえども風紀委員会の恐ろしさはちゃんと知っていたらしい。恐ろしいのは主に委員長だが。
溜め息。
今日はすでに疲れた。
「――折原くんが溜め息なんて珍しいね。幸せを逃がす実験かなにか?」
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