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A certain day~京弥の一日~
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「近付くな?出来る訳がないだろう」
生徒会の執務室、会長の椅子に座り、机に両肘をついて手を組んだ男が大業に溜め息を吐く。
その様子で、学内を案じている内容だったら生徒会長として賞賛に値しただろう。
しかし、純血種でこの学園のトップと呼ばれる彼の頭を占めているのは大抵ある人物の事だった。
「考えてもみろ、毎日アイツを見るんだぞ?」
まるで非合法の危険物に手を出し、禁断症状を訴えているかのように、目を見開いた状態でその両手を震わせている。
たったの数日禁欲が続いただけでこうなのだから、確かにこの人――"中毒者"にとっては拷問なのかも知れない。
それから、横から見る髪から項にかけてがいいとか、耳の形が俺好みだとか、声や全てにおいて艶っぽく、事情を思い出して欲求を抑えられそうにないだとか…とにかく事細かに力説される。
適当に相槌を打ちながら淡々と庶務をこなす器用さも、生徒会に真面目な働き手がいない為に身に付いたものだ。
手を進めてはいるが、結局は一人で行っているので当然分が悪く。
「―――会長、仕事してください」
目を閉じ、怒りに震えながら未だに(今度は腰の形について)能弁に語る言葉を遮った。
―――――――…
―――
―――――……
「期日迄の書類だ」
生徒会室を訪れた颯都が、会長―――ではなく、副会長の京弥に書類を渡す。
今、生徒会室には珍しく璃空がいない。
「―――確かに」
クリップされた書類を確認し、受け取る。
何かと周りが騒がしい彼であっても、こうして
毎回期日より前には仕事を回す。
早いが、決して雑ではなく、内容も正確だ。
そこは京弥も感心を覚える所でもあって、最初は任せていいのかと疑って掛かっていたが今ではあまり真面目ではない生徒会一同より、安心して仕事を任せられる。
「じゃあ、後は頼んだ」
少し微笑んでからすぐに身を翻し去ろうとする。
「、待って下さい」
背中に思わず声を掛けてしまってから、なぜ引き留めたのかと気付いた。
京弥は、自分が進んでコミュニケーションを取るタイプではなく、それが馴染みあるメンバーの生徒会内であってもストッパー役である事は自負していた。
加わるのではなく、静観するような客観的視点で物事を考えていた。
彼に声を掛けたのは、京弥自身にも思いも寄らぬ出来事だった。
「―――紅茶でも、飲んで行きませんか」
そういえばまだ持て成しをしていなかったかも知れない、と言いながら頭でそう結論付けた。
「…あぁ」
自分は緑茶を、彼には紅茶を淹れてカップを前に置いて対面のソファーに座る。
「…お前も大変だよな、こんな面子で」
紅茶を一口啜った颯都が沈黙を破った。
その視線は空席の席に向けられ、苦笑している。
「…えぇ、苦労していますよ。お察しの通り」
緑茶を啜った京弥が、苦い顔をした。
互いに立場は違えど会長に振り回されているからか、言葉にせずともその苦労は察せられる。
その後もとりとめもない話をしながら…この前ひたすら彼の容姿の話を聞いたからだろうか、彼をチラリと見る。
今は伏せられた目。清潔感のある身だしなみ。
ティーカップを持つ姿はどこか様になっていて、気品が感じられた。
「…貴方は、一般家庭の出身なんですか」
「あぁ、理事長の親戚だって言っただろ」
何となく投げ掛けた質問も、一瞬不思議そうではあったが自分も知っている答えが返って来た。
…なぜそんな事を質問したんだろうか。
分からないが、彼には謎が多い。
出生地にしても経歴にしても、普通は何かしらの情報が出てくる筈。
…普通、ではないのだ。
でなければ、風紀委員長に任命され、会長を人気で打ち負かしたり出来ない。
人を惹き付ける何かを、持っているからだ。
不思議と安心感があるような気がするのは、気のせいだろうか。
…それは、今生徒会に騒がしい面々が居ない事にも起因しているのかも知れないが。
それからも少ないながら言葉を交わし、飲み終える時間があっという間に感じた。
「じゃ、俺はそろそろ…邪魔したな」
「いえ…」
立ち去ろうとした彼は思い出したように立ち止まり、振り返った。
「紅茶、有難な。美味かった」
何気ない素振りで笑った、その表情がなぜか目に鮮やかに映って驚く。
生徒会を去っていたその後も、しばらくその場に立ち尽くして、思った。
………あぁ、確かに危険だ、と。
彼を知りたいと思う反面、知れば知る程、抜けられなくなるのだろう。
(…多分、そうだと分かっていても)
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