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―――
ガチャッと玄関ドアの音が聞こえて、まるで犬のように玄関までお出迎えにいく。
これがペットである俺の本来の務め。
メールで大体の帰宅時間を知らされていたから夕飯の準備もバッチリで。
「お疲れ様です」と言う俺に対して
「あぁ」という返事はもう日常だ。
「今日の飯はなんだ」という問いに答えるのは、新婚の夫婦みたいで慣れないけれど。
必要な物は伝えた翌日にはもう用意されていて、普段通りの日々を過ごし、今日は入院前日の木曜日。
入院なんて初めてで何を用意していいのか分からず、何も用意していない。
明日の朝には病院に行くのに。でも本当に何も思い付かない。
験担ぎにと作った夕飯のとんかつを食べながら、不安はどんどん募っていく。
それを見透かしたのか。
「安心しろ。あいつの腕は確かだ」
それに…験担ぎもしているようだしな、と笑われる。
それでも不安は拭えないまま、残った家事を終わらせて寝室へと向かう足取りは重い。
バタバタと動き回っている方がまだいい。少しは気が紛れるから。
寝室へ来てしまったら恐らく余計な事まで考えてしまうことは安易に想像がつく。
入浴中もそうだった。どこを切るのか、血はどのくらい出るのか、そもそも俺って何型なのか、考え出したらキリがなくて。
広すぎるベッドに寝転がり真っ白な天井を仰ぐ。
明日からは病院のベッドで過ごすことになる。
きっと大嫌いな注射や点滴なんかをされて、隣に寝ているおじいさんかおばあさんと世間話なんかをして。
「はぁぁっ…」
何度目かの溜め息はもう抑えるまでもなく勝手に口から出てしまっている。
「そんなに嫌か」
っ――!!
急にかけられた声にビクリと体が跳ねた。
いつの間にいたのか。
それよりも、入ってきたことに気付かないくらい考え込んでいたのがびっくりだ。
「…いえ。大丈夫、です」
本当は大丈夫なんかじゃない。
怖くて怖くて気がおかしくなりそうだ。
「強がるな。怖いなら怖いと言っていいんだぞ?」
なにそれ。そんなこと言われると涙が出そうになるじゃないか。
ただのペットなのに、何故そんなに優しくしてくれるの?
「お前はまだ18だ。我慢しすぎるのは良くないぞ。我が儘言って甘えてみろ」
歯をくいしばって涙を堪えていたのに、その努力をあなたは簡単に無駄にさせる。
でもね、我が儘なんて言えないよ。
出会いが出会いとはいえ、病気持ちのこんな俺に優しくしてくれて手術までさせてくれて。
生きたいと、幸せになりたいと思ってしまうことがもう我が儘だもん。
それに甘え方なんて知らない。
ニヤリと悪戯に笑う顔が視界に入り何かされるかと警戒したけれど、ただ頭を撫でられただけで何事もなく眠りについた。
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