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(…あ、慎吾だ)
4月も残り僅かとなったある日。ふと窓の外に目を向けた先に体操着姿の慎吾がいた。
きっとこれから体育なのだろう、クラスメイト達に囲まれながら何やら楽しそうに話している。相変わらず、彼の周りには性別問わずたくさんの人が集まっている。あの中で彼に好意を寄せているであろう女子は、少なくとも2,3人はいるであろうと壮馬は勝手に予想をたてた。
「あっ」
壮馬の視線に気づいたのか、慎吾の色素の薄い双眼と目が合う。それに少し驚いて壮馬は小さく声をあげるが、ひらりと軽く手を振った。
すると慎吾は嬉しそうに目を細めて笑うと、こちらに手を振り返してくる。クラスメイトが慎吾の視線の先を探ろうとするが、慎吾がすぐに壮馬から視線を外して歩き出すと、すぐに興味をなくしたように慎吾の後を追う。
「壮馬ぁ、頼まれたの買ってきたぞ」
丁度その時、食堂へと席を外していた涼が帰ってきた。壮馬の机に頼まれた物を置くと、自分の席にどっかりと腰を下ろしてオレンジジュースのパックにストローを刺す。
「…?壮馬、お前なんで笑ってんだ?」
「え?」
ストローに口を付けようとした涼が壮馬の顔を見て首を傾げる。壮馬は右手で口元を隠して「笑ってた?」と涼に聞き返せば、頷かれる。
最近、慎吾の事で壮馬は優越感を感じてしまうことが多くなった。自分だけに見せる表情や自分だけに聞かせる優しい声。自分だけに触れる慎吾の指先など。
自分だけ。という特別感が嬉しくて、優越感に浸る。それで恐らく、無意識の内に笑みが浮かんでいるのだろう。でもまさか、涼に指摘される程とは。
「何かいいことでもあったのか知らねーけど、一人で笑ってんの気持ち悪いぞ」
「うっせ」
「っておい!それ俺の焼きそばパン!!勝手に開けんなバカ!」
思ったことをストレートに告げる涼に腹いせに焼きそばパンの封を開けば、ガタンッと派手に音を立てて涼は立ち上がり壮馬に向かって手を伸ばす。面白いほど焦った反応を見せる涼を一頻り笑ったあと、壮馬は涼が買ってきてくれたサンドイッチを口に含んだのだった。
授業が終わり、既に終えた授業の教材をロッカーへと直すため壮馬はロッカールームにやって来ていた。ロッカールームには全クラス分の小さなロッカーが設置されており、休み時間になる度そこは人でいっぱいになる。
百均で買った小さな南京錠を開き、最低限整理されたロッカーの中に教科書を放り込み次に使用するノートなどを取り出す。
「そんでその時に慎吾がさぁ」
「あれはマジでウケたわぁ」
「あれはお前のパスが悪かったんだろ?」
騒がしかったロッカールームが更に騒がしくなる。女子達の視線を一心に浴びるのは、体育を終えたばかりの慎吾だった。体操着をロッカーに直すためか、クラスメイト達と笑いながら自分のロッカーへと移動する。
「壮馬」
「よぉ。体育お疲れ」
人でいっぱいだというのに、目敏く慎吾は壮馬の姿を見つけると真っ先に駆け寄る。先程の休み時間の事があり、壮馬は少し照れくさかったがいつも通りに接するよう心がけた。
「涼は?」
「アイツは教室で爆睡中。だから今は俺一人」
「アハハ、涼らしい。あ、そうだ壮馬。歴史の教科書今持ってる?次貸して欲しいんだけど」
「おーいいぞ。うちのクラス今日歴史ねぇし」
壮馬は自分のロッカーに手を突っ込むと、まだ新しい歴史の分厚い教科書を慎吾に渡す。その時、慎吾の指が自分の手に一瞬だけ触れてドキリと心臓が跳ねる。それは偶然なのかそれともわざとなのか壮馬には分からない。
「サンキュ。壮馬」
小さく微笑みながらそう告げると、慎吾は壮馬から教科書を受け取って自分の教室へと戻っていった。触れた手が熱く、なんだか心臓がムズムズして変な気持ちだ。最近、同じような事が増えている。以前まではなかった気持ちの変化に、無自覚で鈍感である壮馬が気づき始めたのだ。だが、まだその先のゴールには辿り着けない。あと少し、あと一歩の所で目の前のゴールに届くというのにー
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