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brightness【光の雨】
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やっとのことで花宮達から解放されたのは一時間以上も経ってからだった。
秋風が蔓延する空気を頬に感じながら、俺と多田は無言で静かに歩く。無言の中に張り巡らされた緊張感が伝わってきて、どう多田に声をかけたらいいか分からなくなる。
知ってはいけない物事の真相を知ってしまった。まさしく、そんな状況を俺は目にしてしまった。
多田と花宮は確かにそっくりだけど、フィクションでもあるまいし、まさか本当に肉親ってことはないよな…?
心のどこかで俺は、そう信じ込んでいた。信じたかったのだと思う。
代わり映えのない日常に突然非日常的な出来事がひらひらと舞い降りてくるなんて、誰だって思わないだろう?
「…おい多田、大丈夫か?」
すっかり日が暮れてしまったせいで、ライブ中と同じく多田の表情をよく確認することが出来ない。今はそれがとてももどがしく感じられ、苛つきが募る。
「…ちょっとびっくりしているだけですから……一体どうしたらいいんだろう、と…」
多田の声は今にも消え入りそうに掠れていた。俺は一体なんという言葉を彼にかけたらいいのか頭の中に浮かんでこなくて、全く確証のない「大丈夫」という気休めの言葉を呟くことしか出来なくて。
……大丈夫。…いいや、大丈夫じゃない。
何も大丈夫じゃないよな、こんなの……。
多田が抱えているであろう漠然とした何かも、花宮という存在が現れたことも、俺が彼に告白されたことも、そして多田と花宮の関係性も。
その全てが、連綿と続く複雑な因果に導かれたのだとしか思えない。
「…はあ…」
もうすぐ秋が終わり、冬がやってくる。漂う空気からは温もりが消え、鋭利で冷たいものとなるのだろう。
誰にも聞こえない俺の呟きは、真っ暗な世界に吸い込まれていった。
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