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19話「嫉妬した」
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男女の恋愛と等しく。
無論、男同士の恋愛だって様々な情が動く。
俺が千田の笑顔を可愛いとか綺麗とか格好いいとか思うのだって、周りの連中が女子アナとか女優とかモデルとかを見て「可愛いなぁ」「癒しだなぁ」とか。そういう風に思うのと一緒なのだから別になんともおかしくない。
だから
俺が例えば千田の部屋で2人っきりだということに対して異常に緊張したり変な呼吸になってたり妙に暑いと思ったりしていてもそれは普通な筈だ。
だって
俺の目の前には好きな人がいて、わざわざ俺のために飯を作ってくれていて。しかも初めて見る私服で、加えてこの部屋いっぱいに千田のあのいい匂いがするわけだ。
普通も普通
こんなにドキドキするのなんて。こんなに意識しちゃうのなんて。こんなに息が荒いのだって。通常男子の生理現象。大丈夫大丈夫。
「・・・」
「宮崎。何緊張してんの?」
「っ、え!?なに!?」
1人でグルグルと思考回路を巡らせていた結果。
千田にクスクスと笑われながらそう話かけられた。
学校が終わって。
宇田っちは部活、救馬はよく知らない1年の女の子と逢い引き。沢野は本原とどこかに行ってしまった。
ので
結果的に残された俺と千田は約束通り、千田の家に向かって。今現在この状態になっている。
「えっ、いや、緊張とかしてないって!」
「してるだろ、さっきから。キョロキョロしすぎ」
「あ・・あはは・・あはははははは!バレた?」
凄 く 笑 顔 が 可 愛 い 。
何でだ・・・救馬の笑顔なんて見ても何とも思わないし妙にニタニタしてるからキモイとか逆に思うのに。何で千田だとこんなに可愛いとか顔綺麗とかイケメンとか思うんだろう。
そんで、それに加えて何でそれを見るたびにドキドキドキドキしてしまうんだろう。
「千田、何作ってんの?俺本当に手伝わなくていい?」
「いいよいいよ。お客さんなんだから座ってて」
お客さんっていうか・・・これ俺からしたら新婚生活みたいでドキドキしかしないんですけど!!!
キッチンで料理してる千田!!エプロン!!いい匂い!!笑顔!!
ソファに座ってテレビ見てる俺!!
ああああああ!!すごくいい状況!!
(妄想が・・妄想が、妄想で、妄想・・・妄想・・も、もう・・)
色々と限界に来そうだ。
「宮崎ってさー」
「え?」
「何人家族?地元どこなの?」
チラチラと。
手元を見つつも、千田は俺の方を向いてニコニコと会話してくれる。
良妻(思い込み)すぎて、何だか泣きそうだ。
「あ?・・・あ?」
「ん?」
何 人 家 族 ?
いや、なっちゃんと、俺と・・父さんは・・?
でも、もうほぼ同居してるし、家族って数えていいんだろうなぁ。
「3人」
一応とばかりの小声で言った。
「3人か。お父さんとお母さんと、お前?」
「うん」
「一人っ子か?」
「っ・・」
そこまで会話してやっと。
昨日沢野から聞いた事実を思い出す。
千田のお兄さんは、自殺しているんだ。
でも
でもここで聞き返さなかったら、ちょっと不自然になるような気がした。
「・・千田は?」
結果的に、少し間をあけて聞き返す。
「うちはね、4人。父親と、母親と、兄貴と、俺」
「ぁ・・お兄さんいるんだ」
なるべく自然に聞き返した。
沢野ががんばって聞き出したこと。俺には当然話したことのない家族のこと。
だから、ちゃんと自然に。自然に話さないと・・・
「・・なあ、宮崎」
「ん?」
ああ、だめだ。
大体にして千田と話すって言うのが、もうドキドキして仕方ないのに。
「なんか・・ごめんね?」
「え?」
そんな俺をよそに、急に千田は謝って来て。
俺はチラチラとテレビを見ていた目をグルンと千田の方に向けて。そうして意識もしっかりと、千田の方に向けて集中した。
あっちは忙しそうに手元を動かしている。
千田の部屋の中はシンプルな作りで、同じようにシンプルな感じの家具と色々なものが置かれている。
「いや・・なんか最近、宮崎らしくないっていうか、あれだから。俺が遊びたくて家呼んだけど、もしかして嫌だった?」
「え!?いや全然!っつうか嬉しいし!」
「本当かよー。超心配なんだけど」
「気にし過ぎだって!本当だから!ってか俺の方がごめんだし。家泊めてもらうし、飯作ってもらってんのになんもできないとか・・」
「いや、いいよ。いつも1人でつまんないから、話せる人いるだけで充分」
ニコッと笑う千田。
何だか本当に、すごく気を遣ってくれる奴だ。
それはすごく、良いことなのかもしれないけれど。それがあるからこその、なんて言うか・・・距離を感じる。
「なあ千田」
「ん?」
「もっとさあ、遠慮しなくていいからね?俺本当に暇だから、遊び誘ってくれるの嬉しいし。基本的に人と一緒にいるの大好きだし、それが千田なら尚更いいし」
「あはは。ありがと。そんなこと言うと俺ほんとにしつこくなるからなー」
「いいってー。もう友達なんだからそういう・・なに?遠慮なく、こう・・ガツガツと行こう」
「なにそれ」
「上手い言い回しがわからん」
「あはは!」
何となく、千田って独特の距離を保ってる気がする。
ここから先は入れられない、みたいな、そういうのを。
俺はまだまだ千田からしたら遠いいのだと、その距離を感じるたびに思う。
何か踏み込むなと言われている様な感覚が過るたびに、自分の足元を見てしまう。
ああ、まだだ。
全然遠い。沢野と千田の距離からしたら、俺と千田の間は広い。
それにもしかしたら、沢野よりも仲の良い友達が他にいるかもしれない。俺みたいに幼馴染みがいたり、本当は同い年の連中で凄い仲のいい奴がいたり。
そういう奴がいるかもしれないじゃないか。
俺の知らない千田を、すごくすごく良く知っている奴が。
「・・・」
もっと千田とうまく話せる奴が。
もっとうまくコミュニケーションをとって、もっとうまく一緒にいられる奴が。
(・・そんなのがいたら、嫌だなぁ)
単純に。
知りもしない、見たことも無い相手に対して。いるかもわからない相手に対して。
単純に今、すごく嫉妬した。
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