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負けるな3
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遥「お供って…生徒会室とは逆ですよ?」
優「そうだね…下駄箱まで着いていくよ。ついでに風紀に資料取りに行くから」
遥「そうですか」
会話がないまま歩き始めた。
柿原先輩って紅茶みたいな香りがする。
甘いような苦いような。
チラッと先輩を盗み見る。
改めて隣に並んでるとすらっとした体型に長い手足,小さな顔。
焦げ茶色の瞳は優しそうなのに時々怪しく揺れる。
タレた目は世間一般ではエロいって言われるんだろうな…。薄い唇。黒すぎずかと言って白すぎる訳でもない肌。
単純に綺麗だと思った。
優「僕の顔になにかついてる?それとも何か他にあるのかな?」
遥「気づいてましたか…」
優「まぁね。人からの目線には敏感なんだよ。結構良い家柄に生まれたかからね」
遥「確かに柿原財閥は有名ですもんね。確かコンピュータ関連でしたっけ」
優「うん。まぁ僕は三男坊だから家を継ぐことはないけど,小さい頃からそれなりに人が集まるところとかに連れられて行ってけど」
三男坊か。
大体そういう家は長男坊が家を継ぎ次男坊がそれを支える。三男坊は特に目立ったことはないけどもしものために鍛えられる。
優「僕らには姉さんも居るんだ。1番年上なんだ。姉さんはね?とても気高く美しく可憐な人だった」
遥「だった…って」
優「うん。2年前に亡くなったんだ。
姉さんは家の為の政略結婚にも笑顔でOKをし嫁に行った。好きでもない人と結婚したというのにそれでも強く自分を持っていた。
口癖がね?
"何があっても自分を曲げない!!信じ続ければ必ず願いは叶うから,だからどんな時でも絶対諦めない!!"
…ほんと強い人だったよ」
その顔はいつもと同じ笑なのに瞳には深い悲しみが見えた。
優「結構歳が離れてたから姉というより母のようだったかな。あの日は久々に姉さんから連絡が来たんだ。内容は特別変わったことじゃあなかったけど今でも頭の中に残ってる」
"あの日"とは柿原先輩のお姉さんが亡くなった日だろうか……。
優「その数時間後姉さんが死んだって連絡が入ったんだ。父親から。"薫が自殺した"ってね」
遥「自殺だったんですか…」
優「うん。原因は夫による暴力。動かなくなった姉さんの体中から痣や煙草を押し付けられたことによる火傷や鋭利な刃物による切り傷が見つかった。姉さんの子ども達の体からも痣が見つかり夫は逮捕された」
薫さん。
柿原先輩のお姉さんは政略結婚させられた夫に乱暴をされ自殺に追い込まれた。
他人である僕が今話を聞いただけで怒りを覚えているけど…当事者であった薫さんや子どもさん,その家族の先輩達はきっと…。
優「姉さんは最期まで気高く美しく可憐だった…ごめんね?暗い話をしちゃっ………ッッ」
きっと今僕が何を言おうと結局後祭。
綺麗事も偽善も意味が無いんだ。そんなのはきっとどこにでも落ちてる。
分かっててもこのまま何も言わず別れてしまうと僕はきっと後悔する。
気がついたら僕は柿原先輩の首と後頭部に手を回し抱きしめていた。
遥「……結局何を言っても僕は赤の他人で綺麗事や偽善にしかならないのかも知れません。
それでも僕は言いたいことは言わせてもらいます。
柿原先輩のことです。自分のせいでお姉さんが死んでしまったとか気づけなかった自分にも責任があるとか考えてるんだと思います。
そしてどこかで夫さんのことを恨んでる」
優「…」
遥「僕も大切な人を失った時同じように恨み憎しみました。気づかない振りをしただけでどこかで復讐をしたいとも考えてたと思います。
けど同じように自然とその気持ちを止める何かが僕の中にはありました。
大切な人からの貰った言葉や思い出や願い。
きっと復讐をしてしまえばそういう貰ったもの全てがなくなってしまうような気がしたんです。
死んだ人はもう何も思わないし悲しまない,笑わない感情なんてない。もう…帰っては来ない。」
優「…そうだね」
遥「もう自分を呼ぶ声は聞こえない。けど残してくれたものはある。それを僕は忘れない。死んだ人が悲しむとか綺麗事は言いません。
これは僕のわがままなんです。
柿原先輩,疲れたら休んだっていい。時には逃げることも大切です。
けど憎しみに囚われないで。囚われてしまったらいつか大切な人の言葉も思い出せなくなってしまう」
優「…そう簡単に感情は捨てられないよ」
遥「別にその感情を忘れろとは言いません。
忘れずずっと持っておくことが大切なんです。いつかその感情と向き合える時が必ずくる。
だから囚われるのではなく向き合って受け入れてください。そうすればきっと誰かを心から愛すことができると思うんです。だから…負けないでください…」
自分勝手のことを言ってるのは分かってる。
それでも先輩に僕と同じ思いはして欲しくない。
失う辛さを知っている人は強くも弱くも,優しくも残酷にもなれる。
まだ先輩はどちらでもない。
だったらお姉さんのように強く優しくなって欲しいと思ってしまう僕は傲慢だろうか。
遥「うわっっ」
玄関近くの空き教室に連れ込まれそのまま抱きしめられる。
優「君は…強いね。僕は君のように強くなれるかな。姉さんのように…」
遥「それは分かりませんよ。気高く美しく可憐になるための道は僕より先輩の方がよく知ってると思いますよ?」
優「はは,違いない。ありがとう遥くん」
遥「僕の命が尽きるまで先輩の強くなるって夢,全力でサポートします」
優「…うん,ありがとう」
しばらくの間抱きしめあっていたが優先輩のそろそろ帰ろうか…と言う言葉によって僕は学校を後にした。
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優side
風紀室に向かう最中先程のことを思い出す。
優「負けるな…か。なれるといいなぁ」
姉さんの最後の言葉を思い浮かべる。
"優,何があっても負けないで。疲れたら休んだっていい…。時には逃げることも大切よ?
…もし私に何があっても憎しみに囚われてはダメよ?憎しみからは憎しみしか生まない。
だから誰かを憎むより誰かを愛しなさい。
……大好き,愛してるわ優。貴方は強く生きてね…"
一方的に切られた電話。
プープーと電子音だけが響いてずっと耳に残ったのを覚えている。
姉さんのように強く美しい遥。
どうしよう。本格的にあの子に生きてほしいと思ってしまっている。
儚く散ってしまう姿なんて見たくない。
白くなった人は美しくそして冷たい。さてどうしたものか。これからもっとあの子をしれたらいいのにな。
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