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なおとナオ
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伏見ナオというのは偽名です。
そもそも俺という存在が偽物です。
そんなことね、誰も知らなくていいことだから言わないよ。大人はいつもそうなんだ。自分に不利益なことは口にしない、秘密と嘘が多くなって、保身が上手くなれば一端の大人になれるわけで。…まぁ、子供でもそれが得意な子もいるけどね。それは例外。
今は高校の先生、その前はカフェのアルバイト、その前はコンビニの店長で、その前は偉いさんの秘書で、その前は大統領の側近、あー、もっと前なら武将だったし、その前は男娼だったな。と、今までやってきた仕事はとっても多いわけですよ。んん?あぁ、うん。だからね、死なないんだよね、俺。
なーんて、なーんて!うっそー!此処まで俺の話を真剣に聞いてくれてありがとう、キミはとっても騙されやすい人だね。この話の中に本当のことはたったの一つしかない。どれが本当か?やだなぁ、そんなの決まってるじゃない。
俺が死なないってことだけだよ。
死なない、ンー、ちがうな、死ねない?いやそれもしっくりこない。そもそも俺に生命は宿ってないんだ、消えられない、が正解かな。消えたくない、も正解かも。そりゃそうだ、人間じゃないんだから。姿も声も態度も完璧に人間を演じてはや三百年、俺は人間じゃない。じゃあ何か?なんだろうね?
ひどく、落ち込んだ顔をしているな、と思ったわけですよ。窓の外をじっと眺める二つのお目目がね。だから人間としての職務を全うするために、イチ生徒を救うことを建前に、俺はこの子に話しかけたわけ。わざとこの子をあだ名でね、なおと呼ぶようにしたわけ。
本当は、分かってはいたんだよ。
この辺りは俺の大事な狩場でさ。俺が生き延びるためには必要な場所でさ。っていうか仕事場だしさ。先生の顔をして笑顔を振りまきながら、この子のこともいつか俺が弔ってやるんだろうなって思ってたんだ。
ねぇ。死神って知ってる?
俺の名前は伏見ナオ。今の名前はね。本当の名前は…まぁ、知らなくてもいいことだね。
黒い髪の隙間。鼻の下まで伸ばしたそのだらしない髪の隙間から、一瞬だけ見えた目がとっても可愛い犬のようでね。「綺麗な顔してるんだから前髪きりなよ」というと、次の日には短髪になってたんだから驚きだよね。ひた向きでかわいい俺の生徒。なお。
話せば話すほど凡人で、なんの面白みもない、なお。
凄く素直で優しい子、なお。
生徒を贔屓目で見るつもりはない。人間の仕事でも手抜きはしない。そのつもりでいたんだ。いたんだけどなぁ。
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