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23時間
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こんなの反則だよ、なお。
命を刈り取るためには、いろんな準備をしなければならない。主に心の準備。死神は大鎌をもってるなんてそれこそ大嘘だ。ただ背中に残った魂を引きちぎって喰らうだけ。
ナオの胸の数字が、もう少しで24になる。明日は休日だから、って、なおが適当な理由をいいながら部屋に転がり込んできた。バカな子だ、あと一日しかないんだよ。もうわかってるでしょ、親にあいさつはした?友達にバイバイは言った?
ねぇ、最期までこんな汚い部屋にいるつもりなの?
ほんとに最期まで俺の傍を離れないつもりなの?
なお。俺はね、君にいえないことがいくつもあるんだ。可愛い、可愛い俺の教え子、俺の獲物、俺の形式上の恋人。…形式上の恋人なんて言い方をするのは、許してね。俺の膝の上で眠りこけるなお。テーブルの上に置きっ放しのカメラ。やっぱりカメラだけは手放さないか、さすがだな。
なんとなく、興味本位でさ。そのカメラのデータを見て見たくなって、覗いてしまったことが、俺の三百年の中で一番の失敗だったと思うよ。
こんなの、反則だよ。ほんとに、こんなんじゃ俺、死神になりきれない。
人物は撮らないんじゃなかったの、なお。被写体が人間の写真は嫌だって言ってたじゃない。俺の写真を俺の前で撮ったのはたったの二回、そんなの冗談だと思ってたよ。お遊びで俺を被写体にしてるんだとばかり、思ってた。なおの魂を喰らう前に、なおの写真が見たいだなんて、そんなことを考えつくのが可笑しいんだよそもそもさ。
死神は人間に興味をもってはいけない、死神は人間に恐怖しか与えられないから。死神は人間の大切なものを奪うから。だから線引きをするために笑って、どの人間からも遠ざかって、上辺だけよろしくやってりゃいいと、そうやって存在してきたのに。
たったひとりのガキのせいで、たちまち狂ってしまった。
わかっていた。なおの視線に込められてる熱も、それに気づかないふりをして先生として笑う俺も、出会った瞬間から、あどけない目を見てしまった瞬間から、これが恋だと、気づいていたよ。
なお、なお、いっぱい嘘ついてごめんね、多分俺がキミに恋をしたことが全ての間違いだったんだ。先生と生徒、以前に、死神と人間。なおより先に、なおを好きだったよ。
たくさんいる人間のなかで、区別のつかない人間のなかで、なおだけが光っていたよ。
惹かれていたのは俺の方、寂しいのも俺の方、俺は死ねないから終わりがわからない。…でも、キミの魂を喰らうなら、はじめて終わりを知ることになる。
最愛の人との、終わりを。
なおの胸の数字が23になった。ごめんね、なお。俺の自分勝手でさ、キミに死期を知らせるような真似をして、本当にごめんね。
それでも、真っ直ぐに想ってくれて、本当に嬉しかったなぁ。
もっと焦ってテンパって泣いてもいいはずなのにね、それでも俺だけを見てくれて、嬉しかったなぁ。
「っ、…すき だよ」
死なないでほしい。できるなら。
こんなに優しい人間なんだ。こんなに綺麗な人間なんだ。生きてほしい。俺に、この子の魂は、喰えない。
「三百年後も、一緒にいたかったなぁ」
ぼろ、ぼろ。涙が雨のようだ。なおの頬に滴が落ちる。なおは目覚めない、よかった。こんなところ、見せられないし。
真人。せっかく心配してくれたのにごめんね。ほんとごめんね。俺さ、凄く恋をしていたみたい。凄く、この子が大事みたい。どうしてもまだ生きていてほしい。そしてできるなら幸せになってほしい。まだ15歳なんだ。初めて俺を愛してくれたんだ。初めて、俺の写真を撮ってくれたんだ。付き合う前の写真のほうが多かった、カメラのデータ。俺で埋め尽くされてるそれを、なおは肌身離さず持ってくれていた。俺の存在を忘れないように、愛し続けられるように。
こんなひたむきな彼を、どうやって殺せるっていうのさ。……無理だよ。
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