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どよーんとした気分で黙ってると、耳元ですぅすぅと寝息が聞こえて、ギョッとした。
誰の寝息かなんて、考えるまでもない。オレのじゃなかったら、ガイヤさんだ。
「ちょ……っ、あの……」
声を掛けつつ身じろぎをしたけど、首元に抱き着いたままの彼女からは反応がない。乗っかられたままのヒザは、重くて痺れて感覚もないし、これ以上支えていられない。
それでなくても、よく知らない女の子に抱き着かれたままでいられない。
早めに「どいて」って言わなきゃいけなかったのかな? どのタイミングで?
「あの、起きて……どいてください」
ギクシャクと手を動かし、とんとんと肩を叩くと、「んんー」って眠そうな声が上がった。
「あ、の、どいて」
「Nooooo」
間延びした眠そうな声で「ノー」って言われても困る。
「えっ、ちょっと、寝ないで」
「寝てマせん」
「え……っ」
寝てないなら、余計にどいて欲しいんだけど、どうしたらいいんだろう? とんとん叩くのもつんつんつつくのも、恐れ多くて続けられない。強引に突き落とすのなんて、もっと無理だ。
純一君に縋り付いてたのを思い出すと、やっぱりじりっと胸が焦げる。けど、ぽんぽんと彼女を慰めてたのも無理ない気がして、やるせない。
純一君を責めるの、違うような気がした。
けど、今こうやって同じ女の子に抱き着かれてる状況で、それでも彼に触らないで欲しいって思ってるんだから、どうしようもない。
嫉妬深くて、自分でもイヤになる。
ガイヤさんが、純一君のこと好きじゃなくてよかった。けど、それが分かってもモヤモヤがなくなんなくて、自己嫌悪が止まらない。
これからも、こういうことがあるかも知れない。
そのうち、純一君を好きって女の子が現われるかも。その時、オレは冷静でいられるかな? 今日みたいに逃げちゃうんじゃないのかな?
そういうの、もう見たくない。
込み上げる思いを我慢して、唇をへの字に引き結ぶ。
「泣かないで」って、頬をぬぐう指はない。代わりに、自分の手の甲で目元をごしっとこすった時――。
「夏樹!」
訊き慣れた純一君の声がして、ハッとそっちに目をやった。
「お前っ、何してんだよ!?」
怒ってる声だと、顔を見なくても分かった。
公園の入り口は、ベンチ付近と比べると真っ暗で、純一君の姿もシルエットにしか見えない。その影が、ずんずんと近付いてきて、ビクッとする。
「ちょっ、どいて」
さっきより強くガイヤさんの背中を叩くけど、やっぱり抱き着いたまま離れてくれなくて、純一君が来るのに逃げられない。
「Noooo」
間延びした声で、ふるふる首を振るガイヤさん。その肩を、現われた純一君が乱暴に掴んだ。
「おい、てめぇ、いい加減にしろ!」
「What?」
不機嫌そうな声で、ガイヤさんが彼の方を振り向く。
せっかくキレイな顔なのに、目が開いてなくて、眉間にしわが入ってて、さっきと同様残念だ。
純一君の眉間にもしわが寄ってて、怖くて、好きって気持ちが萎縮する。
身動き1つ取れないまま、純一君の様子を黙って見てると、目が合った。
「夏樹」
良く響く声で名前を呼ばれて、胸が凍る。
「お前も、いつまでもそんな格好でいるんじゃねーよ! ふざけんな!」
「ふっ……!」
ふざけてなんかない、って、とっさに言葉が出なかった。
怒鳴られて怖くて、睨まれて悲しい。好きでこうなってる訳じゃないのに、責められてグサッと来た。
オレが悪いの? オレのせいなの?
ぶわっと一気に涙があふれ、頭上の明かりを反射する。
眩しくて目を閉じると、ぼろぼろと涙が頬を伝った。それをぬぐってくれたのは、ガイヤさんの細い指、で。
「ジュン! 怒鳴る、よくナイ!」
思いがけず庇われて、余計に涙がこぼれ落ちた。
「何言ってんだ、お前こそどけっつの!」
「Don't touch!」
「お前だろ!」
手を伸ばしてくる純一君を、べしっと払うガイヤさん。
どっちも呂律が怪しくて、目が座ってて。酔っ払い同士で何やってんだろうって、心の中の冷静な部分でちょっと思う。
けど、オレの方も涙が止まらないでいるんだから、自分じゃ酔ってないつもりでも酔ってるのかも知れない。
「いーから、どけ!」
純一君がガイヤさんの腕を掴み、彼女が短い悲鳴を上げる。
そのやり取りは、とてもイチャイチャには見えなかったけど、やっぱりもう、これ以上見たくなかった。
「やめてっ!」
大声を上げると同時に、カーッと頭に血が上る。
軽く押すとガイヤさんが離れ、どんより重い心とは逆に、体の方は軽くなった。
乗っかられてた方のヒザは思った通り痺れてて、うまく力が入んなかったけど、ぐっと我慢して立ち上がる。
「もう、やだ」
ぼろぼろこぼれる涙をぐいぐい拳で拭きながら、思い切って顔を上げると、頭上の明かりが目にしみた。
「もう、やだ! もう! イヤ、だっ!」
頭の中も胸の中も、色んな感情でいっぱいで、言葉がいつも以上に出て来ない。
何がイヤなのか、どうしてイヤなのか、そんなこともうまく言えない。
どう表現すれば伝わるのか、伝えなきゃいけないのかどうかも、もうよく分かんなかった。ただ、もう、イヤだった。
ケンカするのも、嫉妬するのも、睨まれるのも、怒られるのも。知らない相手に庇われるのもイヤ。
公園で1人泣くのもイヤ。
泣き顔見られるのもイヤ。
こんな揉め事の中にいるのも、純一君の険しい顔を見るのも、怒鳴り声を聞くのもイヤだった。
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