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アンバー君の貢献があったお陰か、新王の戴冠式は予想より早い日に決まった。
前国王の突然の崩御から、およそ2ヶ月。騎士団長を含め、国家の重鎮たちが連日遅くまで会議をして、戴冠式の行事なんかを詰めていく。
オレたち騎士も連日の厳戒態勢を続けながら、戴冠式に備え、王都や城内の治安維持に努めていた。
前国王の死因は病死で、特に不自然な点があったとは聞いてないけど、だからって王太子殿下の周りが必ずしも安全とは限らない。
それに周辺諸国からの使者も来るだろうし、この大事な局面で、何か事件や事故があっても困る。
城門前警備、城内巡回、王都警ら……普段は数ヶ月から数年しないと異動はないけど、今は癒着や不正を防ぐため、細かなローテンションで色んな担当を回していっててかなりしんどい。
やる事はいっぱいあるのに、人手不足で大変だ。けど、今は厳戒態勢だから余計に、下手に新人を増やすこともできない。
崩御直後みたいに2週間連勤とか無茶はないけど、結構忙しく過ごしてた。
「ミーガン、たまには家に帰れよ」
騎士団長に気を遣われたりもするけど、「はい……」とだけ返事する。
非番だからって、屋敷に戻ってのんびり過ごす気にはなれない。その点、宿舎にいれば剣の稽古も存分にできるし。仕事に没頭して体を動かしてれば、アンバー君のことを気にしないでいられるかなと思った。
巡回で動き回ってる時は勿論、要所要所で警備を担当してる時も、常に気を張ってなきゃいけないし、集中が大事だ。
ひとりでぼうっとしてるより、剣を振って汗をかき、仕事に打ち込んでガムシャラに頑張ってる時の方が、うじうじ悩んでいなくて済んだ。
アンバー君だって、戴冠式を前にしてすごく忙しそうだし。オレも休んでいられないと思う。
遠目に見る彼は、もうすっかり宮廷人だ。
仕事中の姿を見かけたり、巡回中にすれ違ったりすることもあるけど、互いに立場が違うから話しかけることもできなくて、すっかり疎遠になっちゃった。
仕事中だから目が合わないのかな? 笑ってる顔ももう随分見ていない。
アンバー君が、ひどく遠い。
けど、遠かったのは元々で……オレなんかのトモダチになって貰えて、うちで働いて貰えて、それだけでラッキーだったんだなって、しみじみと感じてた。
騎士団全員、連勤に次ぐ連勤でみんな疲労が溜まってたけど、なんとか順番に休みを回し、ようやく戴冠式を迎えられた。
王都で小競り合いがあったり、通用門から侵入しようとした不審者がいたり、小さな事件はいくつもあったけど、どれもすぐに治まって、式典は平和なままに終わりそうだ。
「この後は夜会も続くぞ。気を抜くな!」
団員たちにカツを入れつつ、騎士団長もホッとしてるんじゃないだろうか。
新王陛下も侍従も、秘書になったアンバー君も、宰相も諸大臣も……みんな疲れたような顔してたけど、式典当日は晴れやかな笑顔だ。
各国からの使者を迎え、盛大に行われた厳かな戴冠式の後、王都を馬車で巡回し、国民へとお披露目を行う。
この警備がまた大変で、陛下のお姿を仰ぐ暇もなかった。
陛下は独身だから、厳密にはまだ喪中ではあるけど、すぐにご正妃選びも始まるらしい。ついでに、同じく独身のアンバー君にも、縁談がいっぱい舞い込んでるって噂を聞いた。
噂といえば、新宰相候補にアンバー君の名前もあるとか聞いたけど、さすがにそれはデマだよね?
前国王の側近や大臣たち――旧世代の首脳陣を一気に入れ替えるのは、さすがに混乱を招きかねないから無理だけど、少しずつ世代交代を進めるらしい。
それは確かに大事なことだし、優秀かつ若い人材を少しずつ登用するのは当たり前のことなんだけど、アンバー君が絡むと思うと喜べない。
アンバー君がどんどん遠ざかる。
新興で領地もない男爵なら、せいぜい宰相補佐がいいとこだ。でも新王陛下は気まぐれだし、割と堂々と我を通す方だから、全くのデマとも言えなくて困る。
寵臣の噂を聞くたび、胸が痛んだ。
オレだって、親の後を継いで辺境侯になれれば、騎士団長とか軍務大臣とか、それくらいの要職に就くのも夢じゃないけど、多分それは10年20年先の話だろう。
今のオレは、ほぼお飾り同然の、爵位を持つ騎士団員の1人で。
貴族が何か問題を起こしたとき、身分差を気にせず応対できるとか、多分その程度の価値しかなかった。
「新王陛下、バンザイ!」
「バンザイ!」
老宰相の音頭に合わせ、戴冠式に居合わせた貴族たちが両手を掲げる。
陛下の斜め後ろには、メガネの侍従と並ぶアンバー男爵の姿がある。彼らだけじゃなく、出席者全員の安全を黙々と護るのが、騎士であるオレの仕事だった。
戴冠式が終われば、国民の前でのパレードがあり、その後は盛大な夜会が何日も続く。
「ミーガンは、パレード前に一旦帰宅」
騎士団長に注意され、渋々屋敷に戻ることになったけど、非番はたった1日で逆にしんどい。
「いえ、夜会が終わってからでも」
一応そう言ってゴネてはみたけど、宿舎への居残りはあっさりと却下された。
「礼服の調整する必要があるんだろ? くれぐれも1度帰らせるようにって言われたぞ」
「礼服ですか……」
イヤな顔しつつ呟きながら、騎士団長の顔を仰ぎ見る。
団長に余計なこと言ったの、誰だろう? 辺境侯である父様? それとも式典に合わせて領地から出て来た、じい様かな?
「言われたって。誰からですか?」
顔をしかめながら尋ねると、騎士団長はふっと笑った。
「アンバー男爵だ」
「アンバー君……」
ぽつりと彼の名前を呟き、潤みそうになる目を下げる。
「余計な世話だと、苦情を入れるか?」
「いえ……」
騎士団長の見透かしたような言葉に、短く首を振って返事した。
もう家令でも主従でもないのに。まだオレの事、気にかけてくれてるんだって知って、胸がぎゅうっと痛くなった。
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