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□『こいごころ』/良介side
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風呂上がり、タオルドライの途中で芹沢から電話が入った。
春日部がまだ帰らないのだと言う。
壁の時計に目をやると、丁度九時。
取りあえず一度切り、寮長に電話を入れてみた。
「本人から電話があったらしいぞ?」
『え…なんだ。春日部ってば水くさいな…言ってくれればいいのに。』
電話の向こうで溜め息が聞こえた。
「今日は柊の家に泊まるって事らしい。」
『…ヒイラギ?』
「あぁ。俺も喋った事ないから詳しくないけど、デカいし強い。」
そう…アイツは俺を見る度スゲエ顔する。
親のカタキ、みたいな?
あんな顔をされる覚えもないんだが…?
『デカいし強い?どんななの?』
耳元で芹沢がケラケラと笑う。
「顔は端正だな。腕っぷしはなかなかだ。」
『へぇ!彼なのかな?』
「さぁな。あ、余計な事言うなよ?寮長からの話は極秘なんだから。」
『はーい!了解!』
大袈裟に言う。
きっと電話の向こうで芹沢は敬礼とかしてるんだろな…
なんて思うと、笑える。
『…何笑ってんの!』
「お前、今敬礼したろ?」
カマをかける。
『…なんで分かった?』
ほらな。
分かりやすい奴だ。
俺は電話をしながらベッドに倒れ込んだ。
「お前の事なら大体分かるよ。」
枕を抱いてそう言うと。
『なんかヤラシイ。』
「なんだそれ?」
『あ…そろそろ電池切れそう!』
「そか…それじゃあまた明日な。」
『うん…あ!今日のパン売り楽しかったね!またやろうね、オヤスミ!』
言うだけ言って一方的に電話が切られた。
相変わらずだな。
通話を切って携帯を枕元に放る。
そのまま枕に顔を埋めて…
クソ…
思い出しちまった。
拓真に電話をした時の…その後ろで洩れた声。
《…ぁんッ…》
あの…エロい声。
アレが久遠のコエ…ヤってる時の。
聞いている俺の方が…動揺した。
携帯、落としそうになったからな。
いつも俺を呼ぶ声じゃない…
もっと、掠れて…甘ったるい声。
あの声で…俺の名前を呼ばせてみたい…
なんて淫らな思いが巡る。
イカンイカン!
アイツは…
兄貴の恋人で、俺の親友なんだから!
◇◆◇◆◇◆◇
いつもと同じ朝。
唯一、いつもと違うと言えば…。
「よっ!良介。」
いつも乗る電車のホームに久遠がいるという事。
反射的にキョロキョロと辺りを見回すが、どこにも拓真の姿がない。
「なにキョドってんの?」
「え…いや。オッス。」
夕べの事もあり、なんだか妙に落ち着かない。
「お…お前がこっから乗るなんて、めずらしいな?」
「あぁ…途中まで拓真に乗っけてもらったからな。」
チクリと胸が痛んだ。
そう…
実際のところ、これが現実。
そして電車がホームに滑り込んできた。
ドアが開くとともに中から人波がドッと溢れてくる。
「うぉ…すげぇね。」
「だろ?…一番奥に行くから着いて来いよ?」
そう言うと、久遠が眉を少し上げて緩く笑う。
「誘導よろしく。」
電車に吸い込まれる乗客の間をすり抜け、何とか一番奥に辿り着く。
「毎日こんななのか?」
「あぁ。今日は少し多いみたいだな。」
ドアを横目に見ながらなんとか向かい合えるポジションをキープ。
「サラリーマンの人は大変だな…。」
「学生もな。」
なんて二人して笑いアッと言う間に次の駅。
ここでもかなりの人が降りるので、俺は…はぐれないように久遠の細い手首を掴み引き寄せた。
しかし!
勢い余って…そのままドアに久遠を押し付ける形になってしまう。
やべ…
スゲェ至近距離だ。
そして入って来る客に押され身体が超密着状態になる。
しかも…久遠の脚の間に俺の足が!
バクバクと…心臓が高速で走り出す。
「狭…い。」
「も…もうちょっとの辛抱だから。」
俺達の背はあまり変わらないから丁度全ての位置が重なる…訳で。
今、俺の目の前には久遠の淡い色彩のブラウンの瞳がある。
妙に照れて視線を奴の首筋に落とした。
あ。
スゲ…マジで痕が一杯付いてる。
クソ…拓真め!
…すると。
ガクンと車体が揺れ…すぐさま車内アナウンスが入った。
どうやら信号の故障とかで、しばらく停車…するらしい。
「マジで…?」
久遠がウンザリした声を出す。
…俺は…
理性との戦いになりそうだ。
ただの停車だから空調は回っているけど俺は…一人冷や汗をかいてた。
踏ん張ってる両手が崩れたら…久遠にのしかかるハメになる。
それに気付いたのか腕の中の久遠が苦笑いをした。
「無理すんなよ良介。ちょっとくらいなら平気だから。」
「い…いや大丈夫だ。」
正直、腕がプルプルしてるけど…理性を保つにはこれしかない。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか久遠は踏ん張る俺の両腕に手をかけ、ゆっくりと…自分の背中に回させた。
「…イヤだろうけど…ちょっと休憩しないと保たないから我慢しろ。」
イヤじゃない…!
むしろイイ!
俺は今、カタチ上、久遠を抱き締めていて…
そして…
身体を密着させて後ろのドアに押し付けていて。
やべ…
マジ、焦る…。
「…ったく、いつになったら動くんかな?」
耳に流れ込むその声と、密着した久遠のイイ匂いにオチかける。
「…良介?」
「あ…あぁ…そうだな。」
「どした?具合でも悪いのか?」
「いや…違う。お前の匂いに…」
「匂い?」
ヤバ過ぎる。
もう…色んな意味でヘロヘロだ。
すると再び車体が揺れ、電車がゆっくりと動き出した。
慌てて久遠から身体を離しまた両腕での踏ん張りを始める。
「…やっとだな。」
「オ…オウッ…。」
「まさかこれで遅刻しないだろな…?」
「多分…。」
危なかった。
危うく…親友になにかしてしまう所だった。
まだ心臓がバクバクしている…。
そして…
やっとの事で目的の駅に到着。
俺の辛い通学地獄が終わりを告げた。
満員電車を降り改札を抜けるとその先の売店の前に芹沢がいた。
「あれっ?久遠も一緒だったんだ?」
「今日はたまたまな。おはよ。」
「おはよ!大葉もおはよっ!」
「おう…。」
脱力してる俺の目の前を小動物みたいな芹沢が横切り、横から久遠をかっさらってく。
…何気に久遠、芹沢のお気に入りなんだよな?
久遠の方も可愛がってるみたいだし。
俺はそんな二人の後に付いて行く。
はぁ…
ホントに何もなくて良かった。
疲労困憊しきった俺は…今日一日の無事の終わりを心から祈った。
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