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49〔裏番外〕ゆくえ……
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初めて恋をした時、それは絶望的な気持ちだった。
中学の親友が、離れていく好きな女を想った泣き顔に欲情して、その求める涙が自分に向かないかと思ってしまった。
男を好きになった事も。
その相手が親友だった事も。
泣き顔に欲情した事も。
全てが信じられず否定し続けた。
高校で別々になり、呪われた気持ちからも解放されるかと思ったが、思春期の体が反応するのは、男の泣き顔にだけだった。
誰にも相談できず。ひっそりと息を潜めて生きていた。
ゆっくり飲み込んだ性癖。
自分のSEXがこんなに乱暴で恐ろしいものだと知ったと同時に、マゾっ気のあるやつらは俺と寝たがった。
その間、見えない出口を探すように、いろんな奴と寝てみたが、暴走は治る事も落ち着く事もなかった。
そんな時奏一に出会った。
初めは、触れるものみんな威嚇するような危うさがあったが、落ち着いた奏一は凛とた綺麗な強い精神の持ち主だった。年の割に落ち着いた考えを持ちながら、ビックリするほどキレっぽくて、その頃の俺は自分の性癖を理解していたから、隣に居られるだけで十分だった……
はずだった………
可愛いと思えていた気持ちは、次第に大きくなって、好きだと思ってしまう。好きだという感情は欲深くなり、手に入れて抱きたいと思ってしまっていた。
気持ちを言葉にする事も、体を重ねることも無いと思って押さえ付ければ抑えつけるほど、求める力は増していく。
次第にSEXの相手をしてくれる人が減り、獰猛な猛獣は空腹に耐えかねて牙をむいた。
奏一に似た弟の修二。
その整った顔立ちと兄に迷惑をかけまいとする健気な性格、兄譲りの芯の強さに錯覚して、俺は修二に手を出した。
手を出してから気がついた。
修二は俺が手を出し汚していい子じゃなかった。
修二は、俺を受け入れようとしてくれた。本当は優しい人だと、どんな行為も許して俺と体を重ね続けた。
それが何を指し示すか、本当は分かっていた。
募りに募った気持ちを修二に告げた時。
修二は終わらせようと言った。
初めての告白は、虜にしてるつもりで俺が縋っているだけで、修二にはまったく届いていなかった。
俺は俺のことしか考えずに気持ちを押し付けた結果。
修二を監禁した。
奏一に病院送りにされたベッドの上で、自分のしでかしたことを痛感した。好きだった奏一を鬼のように怒らせて悲しませ、修二をボロボロにした。深く深く反省して、二度とこんな事はしないと誓った。
俺の気持ちは狂愛だ。
こんな事になってもまだ修二を諦められない。
逃げるように離れた土地に住んで、新しい生活を送りながらも、修二のことが諦められなかった。次の恋に行くつもりも、修二に会うつもりもなかったが、俺の心は呪いをかけたように修二に執着した。
二度とあんな事はしない。
二度と恋に溺れない。
俺の恋心は、人を傷つける…。
そんな呪縛に雁字搦めで、恋も出来ず、だが溜まるものは処理しなければならない。
そうして長い月日が経ち、たまたま地元に足を踏み入れなければならない仕事が入り、帰省して、呪いは再熱した。
今度は誠意を持って伝えてみよう。そうすれば伝わるんじゃないかと愚かな考えが生まれて修二と話をした。
だが、俺の気持ちはただの邪魔者でしかなくて、修二は長年の片思いを叶えていた。
俺の気持ちは誰にも届かない…
届かないどころか、危険極まりなくて、有害だ。
噛み砕いて消すことも出来ず。
かと言って思い続けるには資格も無い毒物。
そんな風に、自分を否定し続けた人生に、悪戯な魔性が現れて囁くんだ。
『ふふふ、面白いね。僕が代わりに慰めてあげる♪』
子供のくせに大人びて妖艶な魔性。
まるで毒物をすべて吸い上げて浄化する様に纏わりついてヘラヘラ笑う。
とんでも無いガキと関わったと思った。
俺の全てを受け止めて導く様な、そんな存在がいる事に驚いて、そして怖くなった。
初めから分かってた。
マキに惹かれる自分がいることを…。
だけど、マキとの関係は修二を好きになった時と似ていて、さらに、マキは修二の友達だった。
それは、絶対に恋してはいけない相手であることを意味していた。
好きになっちゃいけない。
近づいちゃいけない。
触れてはいけない。
俺の気持ちは相手を不幸にする。
そう思って嚙み殺してきた。
俺を許す存在。
俺を好きだという存在。
俺の欲しいものを持った魔性の誘惑に勝てるわけもなく…、何度も何度も貪った。
恋しなければ大丈夫、好きにならなければ大丈夫だとかアホみたいなことを無意識に考えていたんだと思う。
だがそれは、恋しそうで…好きになっちまってるってことだ……。
大人の俺がって…、大人が聞いて呆れる…。
10も年下の相手に甘やされてヨシヨシされて、バカみたいに虜になって、幼稚で情けない。
子犬の様に可愛くて、子猫の様に擦り寄って、可愛らしい自分を最大限生かして構って構って言ってくるかと思ったら、妖艶に微笑んで跨り、そのエロいオーラを撒き散らして俺を発情させる。
矢田には、何度も動物を拾ってくるなと言ったのに。あのアホは、拾ってくるんだ。
一度手にした小さな温もりが、どんなに愛おしい存在か…。あの馬鹿は知らない。
お腹が空いたと甘えて、構って欲しいとつぶらな瞳で見つめてくる。『貴方が大好きだから、構って、貴方がいないと死んじゃうよ』って言われてるみたいで、俺の目には毒なんだ……。
手に入らないものに焦がれたくない…
逃げていくものを好きになりたくない…
壊してしまうなら、俺に近づけない方がマシだ…
何度もそうしたのに、何度も突き放したのに、マキは、気がついたら俺の頭を撫でて微笑む。
そして一つ、また一つと、俺の呪いを解いていく…
結局、俺も〝マキ様〟の虜だ…
構ってと擦り寄られ、好きですとしがみつかれていたはずが…、離さないと掴んで抱きしめてた。
逃げるかもしれない、怯えるかもしれない、悲しませるかもしれない…
修二の二の舞にするかもしれない…
飲み込んだ気持ちを見ないふりして、俺の中に存在しない感情として沈め込んだ。
そうすれば、マキのそばに居ても許されるんじゃないかと……
気がついたら、一度もそれを口にせず、マキの不安を増殖させていた……
一度口にしたら…、もうお終いだ。
一度口にしたら…、離せない。
マキは敏感に、俺の恐怖を感じ取り、愛されてないと思い込む。
そんなこと、付き合うと言った時気づいていたはずなのに…。マキは、藍色と紺の違いのわかる人間だ。マキを誤魔化せるわけもなかった。
そして、気がついた。
マキも、心から好きだと言われた事がない…
マキにばかり言わせて、マキの気持ちばかり確かめて…、腕時計が貰えないと拗ねた俺は、どんだけ情けなくてカッコ悪い男だ…
マキに甘えて、マキが俺を好きでいると過信するからそんな事ばかりしてるんだ…
マキに好きでいてもらえる様に、マキとずっと居られる様にするべきだ…
その時、不本意だが、むつの言葉を思い出した。
〝見えないから見える様にする〟
〝俺たち金貯めて海外で結婚する…〟
あのクソチビの言葉で思いついたなんて、誰にも言えない…
烏磨に話す前に、賢史に相談した。
今まともな考えでマキを分析できるのは、賢史のおかげだと言っても大袈裟じゃない。
賢史『養子縁組?マジ?』
百目鬼『マキは、俺の言葉を信じない、だから形にしたら信じると思うんだ、養子縁組なら死んでも墓も一緒に入れるだろ』
賢史『待て待て、色気がないし重いし暗いんだよ。プロポーズならもっとロマンチックに言えよ』
百目鬼『…俺がロマンチックな事したら引かないか?』
賢史『引く』
百目鬼『だろ』
賢史『いやいや、だからって一緒の墓に入ろうは無いよ。相手は10代だぜ?』
百目鬼『……俺と一緒に生きよう』
賢史『死ぬの次は生きようかよジジ臭い。お前さぁ、女王様が好きなんだろ?だったら甘えるなよ、頑張れよ、あんなモテモテの女王様の周りには、イケメンもロマチストもわんさかいるし、俺みたいないい男も控えてるんだぞ』
百目鬼『…ずっと一緒にいよう?』
賢史『スルーすんなよ!ってかもっとシンプル事まだ言ってないんだろ?疑り深い人間にはストレートに言わないと伝わらないし、お前の場合、怠慢なんだよ』
百目鬼『はぁ?!怠慢??』
賢史『女王様はああいう奴だ、お前には手に余る人間だって忠告したろ。お前にはレベルが高すぎる。お前に似合うとは思えない』
百目鬼『ッ…、よりが戻る様にお節介したのお前だろ!』
賢史『お前の有り様を見てらんなかったんだよ!』
百目鬼『ッ…』
賢史『口では散々な事言っといて、あの子じゃなきゃダメなのはお前の方だろうが!!だったら自分でなんとかしろよ!!』
百目鬼『……すまん』
賢史『お前、せっかく念願の相思相愛になったのに、あれはダメこれはダメ、いい加減自分の首絞めるのやめろよ!お前こそ信じろよ!お前と女王様はちゃんと恋愛してんだよ!だから、いい加減男になれよ!女王様の面倒みたり、飯作って可愛がってデートして、普通の恋愛してるって思ってるかもしれないが、そんなのは努力のうちに入らねぇよ!大事なもんから逃げてるじゃねぇか!それでよく養子縁組なんて言えたな!そんなんじゃ、書類で縛ったって、同棲して閉じ込めたって、いつか逃げられるんだよ!!』
百目鬼『…、俺は…マキの全部が欲しいんだ、だが、あいつには複雑な過去があって、それを切り離して見なかった事にしようとしてる。俺はそれが気にくわない、マキも、茉爲宮優絆も、俺のもんにしたい、ずっと笑ってそばにいられるようにしてーんだよ!だけど俺はマキを救ってやれない!俺の、相手を傷つけるばかりの言葉じゃ、マキを救えない!!どんなに好きでも、マキを救ってやれないんだ!!』
賢史『……また、できもしない事を自分に課せやがって…アホだなぁ』
百目鬼『なんだと!』
賢史『救えないなんてザラだぞ…。俺たちは同じ人間だ、人間が人間を救うなんて簡単にできるわけねぇだよ。どうにもなんない気持ちを抱えて生きてる。だからよ、もっとシンプルに考えろよ、お前あったま悪りぃんだからよ…。ストレートに伝えて、側にいりゃ良くねぇか?一番辛いのは、孤独だ…。お前もマキもずっと孤独に耐えてきたんだろ?だったら分かるだろ?どうして欲しいか、何をして欲しかったか…』
俺と、マキは、同じ辛さを知っている……
刑事の賢史だから、痛感していた事だろう。
人は人を救えない…
一番辛いのは…孤独だと…
俺にはマキがいる…
マキにも俺がいる…
ただそれだけの事が…一番大事だって…
ちょっとだけカッコつけた臭いセリフで、マキに好きだと告げたら、マキは、喜んでくれるだろうか…。
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