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ひねくれ者の、苦悶
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フーっと空を仰ぎ、肺の中に染み込む煙を吐き出す。
視界に映るのは綺麗な青空ではなく白くぼやけて汚れた空
短くなった煙草をベランダに備え付けてある簡易的な吸殻入れに落とす。
……失敗した。
もっと上手いかわし方はいくらでもあったのにな
昨日はあのまま店長のパスタを食べて簡単な後片付けをしてすぐに帰った。
村前さんにも気を使わせた。
店長もなんか言いたげだったな
けれどそういう話題に関してはそっとしておいて欲しい
これ以上俺になにも考えさせないで欲しい
ボーッとしてるといらないことまで考えてしまう。
最近はそんなに考え込むことなんかなかったのに
バイトをしてても学校に行ってても人と必要以上に関わりたくない
…そうすれば何も考えなくてすむだろ?
無意識に伸びた手は新たな煙草に火を付けまた一口
肺を満たす煙が身体の中を汚していく感覚は今となってはひどく心地よく感じる。
「そーいや、爺さんトコ最近行ってないな…」
小さい頃
家も学校も嫌で帰りたくなくなった時は必ず行っていた俺の居場所
個人で写真の現像屋をやっている爺さんの店
爺さんは何かを強引に聞くでもなくただ居座る俺に手伝えとだけ言って
そっとしておいてくれる。
でかくもないのになんとなく威圧感のあるしかめっ面の爺さんだが、
昔から世話になっている人だ。
……元気にしてるか
「顔出しに行くか、」
吸い始めた煙草をすぐに消して、部屋の中に戻る。
爺さんの好きそうな菓子を適当に買って
電車で二十分ほどの場所にあるこじんまりとした小さな現像屋
今では殆ど行くことのなくなった生まれ育った場所
、
「爺さんいるか」
古い引き戸をガラガラと音を立てて開ける。
店主は表にはおらず、気にすることなく奥に進む。
「ん?小僧か。最近顔を見せねえと思っとったら…なんだ、元気そうじゃねえか」
「爺さんも相変わらずみたいだな」
フンっと鼻を鳴らしはすれど
歓迎もないが突っぱねることも無い
持ってきた羊羹を渡すとほう、と少し嬉しそうに口元を綻ばせるする。
わかりずらいのに分からりやすいんだよな
こんな頑固者って感じのくせに甘いもんが好きなんだよな
ギャップってやつか?
「おめー、持ってくんならもっと高ぇもん持ってこいや」
と言いつつ爺さんは大事そうに羊羹を抱え冷蔵庫にしまいに行く
すんっと鼻を掠めるのは懐かしい畳の香り
落ち着く
「んでなんだ、おめーがここに来るなんざ学校でいじめられでもしたか」
「爺さん、俺大学生。そんなもんないよ。」
フンっとまた鼻を鳴らす。
爺さんはそれ以上何も言わない
コトっと茶を無言で出してくるあたり面倒見のよさも相変わらずのようだ。
ありがとう、と口にしようとすると
「すんませ〜ん!!」
ここ最近よく耳にする聞きた慣れた大きな声に遮られた。
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