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作戦開始
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「…眠い」
「昨夜はほとんど寝てないですもんね」
眠たそうに目をこするナンバーはなんだか子供みたいで、命を狙われている身とは到底思えない様子だった。
今日の仕事は何事もなく終わり、いよいよ作戦開始となる。
先程虎子達に小さな術式なるものを渡された。
それぞれが指定された位置に小さい方の術式を貼り、その前に立ち、4人同時に念(オーラのようなものらしい)を使うことで術が発動すると説明された。
念を使う、ということに関しては全くわからないが、どうも能力を使うことがそれと同義であり、
自分の場合はその場で小さな石ころでもテレポートさせればいいらしい。
ナンバーの場合は、常に能力が発動している状態らしく、そのまま立っていれば大丈夫だと虎子は言っていた。
ナンバーと自分はそれぞれ別の持ち場に向かった。
指定の場所に着き術式を貼ると、携帯電話の着信が鳴った。
虎子からだ。
同時に能力を使う合図のために電話番号を交換していた。
「はい、もしもし」
「アカネくん、準備は大丈夫?」
「今術式貼りました」
「OK、ナンバーは?」
「あはは!これ電話の方があとから声聞こえるの面白いね!」
彼はこの距離でも自分たちの喋り声が聞こえるらしい。
「あんたねぇ遊びに来たんじゃないのよ」
「ははは、準備は出来てるよ〜」
「ゲコ太もOKね?」
「あぁ」
「...じゃあ、せーのでいくわよ
……せーのっ!」
合図と同時に、足元に落ちていた小石を右手から左手へテレポートさせた。
その瞬間、
フワッと風が舞い起きた。
「OK!成功よ!」
どうやら成功したらしい。
目に見える変化はない。自分には念、オーラというものが見えないから当たり前だ。
しかしただならぬ力が自分の目の前を流れているような感覚が僅かに感じられた。
これが、念というものなのだろうか。
不思議な感覚に包まれながら、3人と合流した。
「ねぇ、思ったんだけど」
ナンバーが口を開いた。
「結界って、人が入れなくなるんだっけ?ボクたちも入れなくならない?」
もっともな疑問だ、なぜ自分は気が付かなかったんだろう。
「試しに入ってみたら?」
虎子が答える。
「えぇ、大丈夫なの?弾かれたりしない?」
ナンバーはどうやら結界の位置を完全に把握している、オーラの壁がどこにあるのか感じ取れるようだ。
彼は恐る恐る、見えない壁のある方向へ歩いてき、手を伸ばした。
「……大丈夫じゃん」
どうやら弾かれたりはしなかったらしい。
自分にはどこに壁があるのかはっきりとは分からないので彼が本当に壁を通ることが出来たのかは分からないが。
「この結界は、悪意を持ってここを通ろうとした者だけを入れないようにしてるの、だから今までと変わらずに生活できるはずよ」
「へぇ、そんなこともできちゃうんだ」
「まーね、念も魔術も奥が深いから」
「ところで、もうやることは終わりですか?」
「そうね、2人とも今日はありがとうね」
なんだ意外とあっさり終わったな。
虎子とゲコ太と別れ、自分達は部屋へ戻った。
「はぁ、なんか」
ナンバーが口をひらく
「大したこと無かったね」
「そうですね」
「本当に、狙われてるのかな」
彼は言いながら、俯いた。
それは刑務所のことか、ナンバー自身のことか。
「さあ、」
返すべき言葉がわからなかった。
「…アカネ」
「何ですか」
「ボクは今まで、死っていうものが、どんなものか分からなかったんだよ」
彼が言おうとしていることがピンと来なかった。
「…はい」
「生きてる実感がないというか、生きてる意味がなかったんだよ。
でもね、アカネと出会ってからは、なんか違うんだ。
死が、怖いと思うようになった。死にたくないなって、今は思うの」
生きている意味…か
「だから、アカネが、ボクが死なないように協力してくれたの嬉しかった。」
「…別に、そんな大したことは」
「アカネ」
遮るように、彼は名前を呟いた。
「抱きしめてもいい?」
「…はい」
彼のぬくもりに包まれる。
彼の匂いに、包まれる。
「……アカネ、ありがとう」
彼は、胸の中に顔を填めながら、そう言った。
返事の代わりに、抱きしめ返した。
「いつも心配してくれてありがとう、いつも助けてくれてありがとう、ボクのワガママに付き合ってくれてありがとう、」
小さく小さく呟いていた。最後の頃はもう何を言っているのかわからないくらい消え入りそうな声で。
彼の喋っている内容などはほとんど頭に入っていなかった。
ただ、彼のあたたかさと香りに包まれて、安心するがどこか落ち着かない胸のざわめきに戸惑って、それだけで精一杯だった。
こんな時に彼に顔を見られる心配がなくてよかったなと思ってしまう。
しばらく抱きしめられていたが、そのうち彼がハッとした様子で離した。
「ごめん、長々と」
「…いえ」
「嫌だった?」
「そんなこと、ないです」
「よかった」
彼は安堵の表情を見て、自分も安心した。
その日は彼の要望で、同じベッドで寝た。
既に何度か一緒に寝たことはあったので断る理由はなかった。
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