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6.安心は一時
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「大丈夫だよ、っと。」
こんな真夜中に返信するのもどうかと思ったが、きっと傑のことだから朝起きて連絡が無いと知ったら、家まで押しかけてきそうだ。
うざったいほどの 世話焼きなところは出会った頃からひとつも変わっていない。
時を遡ってみると、傑と出会ったのは、大学生の頃だった。全ての過去を捨て切るようにと、東京の大学へと進学したにも関わらず、俺は友達を作ることは愚か、人と話すことも苦手になっていた。
当然、暗く前髪で表情を隠した俺に声をかける人も現れず、大学4年生まで誰一人とも関わらない生活を続けた。
大学四年生になった春の季節、俺は進路相談の為
、教授室を訪れていた。
そこにノックもなしに突如ドアを開けて現れたのが傑だったのだ。
「あ、ぼっちのやつじゃん。」
そんな随分失礼な言葉を投げつけられたのが始まりだった。
「おんまえなぁ、失礼だろうが、しかもノックもせずに。」
教授は溜息をつきながら言ったが、
「いーじゃんかよ、てか俺ノックしたことないぜ。」
なんて笑いながらすぐるは俺の方を見た。
「お前、就職?どこいくん?」
人と普通に話すのなんて何年ぶりか分からないぐらいだ。簡単に言葉は喉を通らず、俺は目線を落としたまま答えられないでいた。
「…?なぁ、聞いてる?」
「あーこいつ、お前と同じとこ、デザインだよ。」
教授が俺に代わって答えると、傑は俺が無視したことなど気にもとめないように笑って言った。
「え、運命じゃんか!一緒とか嬉しいなぁ。俺のことは傑ってよべよ。」
そんな良い奴を無視なんかしたくなくて。そしてどこか心の中でまた人と話したいと思ってて。
よろしくな、と差し出された手の小指だけをおずおずと掴んで上目遣いに前髪からそいつを覗いた。
すると何も話していないのに、傑は分かったように、
「おー、よろしくな。」
と、また綺麗な笑顔で俺を受け入れてくれたのだ。
よかったなぁ、なんて笑う教授に恥ずかしくなりながらも、やっと何とか踏み出した一歩に少し心が暖かくなるのを感じた。
そんな口下手な俺を、傑は兄のように面倒を見てくれて、社会人になった今も色々と世話を焼いてくれるのだ。
対人恐怖症のような俺が唯一少し心を許せる友人だった。
「いつも、ありがとう。」
ちょっと昔を遡ったからか、気づいたらそんな言葉をまた傑へと送っていた。
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