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有坂を引っ張って店の外に出る。
雑誌のせいでどこへ行っても俺の注目は8割増しだ。
「疑問ってなんだよ」
改札に入りながら聞くと、有坂は少しためらう様に首を擦る。
なんだよ。
俺に何か隠し事してんじゃねーだろうな。
俺と有坂の間に秘密とか絶対に許されない。
有坂の事は何もかも全部知ってないと嫌だ。
めちゃくちゃ不満な顔を向けると、有坂は観念したように息を吐きだす。
「春屋にしばらくの間、少し結城を気にして欲しいと言われたんだ」
「――は?」
予想外の言葉に驚く。
「一体何事だと問い詰めたが、本人はそう心配するような大ごとではないと言うし、結城にも言う必要はないと言っていた」
「…どういうことだよ」
「結城は最近ファッション雑誌に掲載されたらしいな」
「えっ?そうだけど…」
唐突に変わった話題にパチリと瞬きをする。
まさか有坂がそれを知ってるとは思わなかった。
「それのせいで周りが騒がしくなるかもしれないと、そう心配していた」
「…ハルヤンが?」
なんだそれ。
雑誌の件は前に俺に謝りには来たけど、でも心配なんか全くしてなかったよな。
「とはいえ結城は元々注目を浴びているし本人もその自覚はあるから、下手に言って不安にさせるよりは周りが少し見てるくらいがいいと、そういう話になったんだ」
「ちょ、ちょっと待て」
「なんだ」
思わず有坂の言葉を遮る。
「いや誰だよソイツは。誰か違う奴と勘違いしてるだろ」
「間違いなく春屋だ。少し前に寮で話をした」
唖然とする。
なんで俺を騙したハルヤンが俺を心配するようなことをわざわざ有坂に話してるんだ。
それも何かの作戦か?
「春屋が突然結城をバイトに誘ったのもそのせいだろう」
「え…でもそれは――」
騙すためじゃないのかよ。
あの静かな誰も来ない喫茶店で、俺をカモるためじゃないのか。
だけどそれなら有坂にそんなこと言う必要はないはずだ。
そもそもハルヤンって有坂の事ちょっと苦手じゃなかったっけ。
ガタンゴトンと音がして電車がホームに入ってくる。
時間的に帰宅ラッシュで、車内は混んでそうだ。
有坂から言われた言葉に頭がついていかない。
でも有坂はハルヤンと違って俺に嘘をつかないから、きっと本当の事だ。
「春屋が結城を心配していた事を知っていたから、騙したという話に誤解があるのではと思ったんだ」
有坂はそう言うと俺の腕を取って電車に乗り込む。
車内は案の定満員だったけど、構わず俺を守るように抱き込んでくれる。
こういうところ有坂は全く気にしない。
羞恥や周りの目なんかよりも、いつだって俺を優先してくれる。
有坂にピッタリくっついて、暖かいその温もりに目を閉じる。
有坂の言葉と、ハルヤンに言われた言葉が頭の中でぐるぐるしてる。
あんなに暴言吐いたくせに、俺のことを心配してくれてたのか。
だけどやっぱりなんだか腑に落ちない。
それにあのハルプロの名刺は、間違いなくハルヤンの家の事務所だった。
ハルヤンに紹介されたって言ってたし、やっぱり騙したことに間違いはないんじゃないのか。
電車を降りて二人で夜道を歩く。
有坂の手をギュッと握りながら、さっき言われた話を考え込んでしまう。
考えても全く分からない。
ハルヤンにどういうことか聞きたいけど、お前の顔なんか見たくないって言っちゃったし、ハルヤンも俺にはもう関わらないって言ってた。
それに聞いたところで、また酷いこと言われる可能性もある。
「…俺だけでいいと言ったのにな」
「え?」
不意に落ちてきた言葉に顔を上げると、有坂はどことなく困ったようにクスリと笑って俺を見下ろす。
「いや、なんでもない。結城が俺以外の者に対して、そこまで感情を剥き出しにするのは珍しいと思ったんだ」
「別に…そういうわけじゃないけど」
「春屋の事をなんとも思っていなければ、そんな風に落ち込んだりはしない」
そう言われて顔を俯かせる。
そっか。
俺は落ち込んでるのか。
有坂と一緒にいるのに、なぜかいつもみたいにテンションが上がらない。
何を言われようとハルヤンが今まで俺をダシにして稼いだ事は事実だし、あんな詐欺師野郎どの道もう関わらなくたっていいはずだ。
だけどなぜか他の奴らみたいに、どうでもいいってすぐに割り切れない。
「俺もこれ以上春屋と結城の事に口を出すつもりはない。あとは自分でゆっくり考えてみてくれ」
有坂の言葉にコクリと頷く。
どうするのかはまだ分からないけど、でも俺はもう一度ハルヤンと話をした方がいいのかもしれない。
家までは相変わらずあっという間で、有坂と別れるときはどうしても寂しい。
「…有坂」
繋いだ手を離せずにいると、優しく髪を撫でてくれる。
全然足りない。
もっとたくさん触って欲しい。
有坂に酷く求められることを知ってしまったから、こんな触れ合いじゃ全然足りない。
だけど有坂は前みたいに俺を抱きしめて、いっぱいキスして可愛がってくれたりはしない。
そっと手を離すと「おやすみ」と愛しげに俺の目に語り掛ける。
俺の話はちゃんと聞いてくれるし、家までも送ってくれるし電話したらすぐに駆け付けてきてくれる。
変わらずにめちゃくちゃ優しいけど、どうしてまたこうなってしまったんだろう。
こういう時ハルヤンがいてくれたら――とふと思って、そんな自分に慌てて首を振った。
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