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きゃあっと黄色い声が上がる。
小気味良い音を立てて打ち返したボールが、綺麗にコートの隅へ決まる。
爽やかな風と共に汗を拭うと、今度は感嘆のため息がそこかしこで上がる。
今日は球技大会で、俺の選択種目はテニス。
昔からテニスは避暑地でも遊んでいたし、遊びとはいえプロのコーチに教えてもらっていたから得意だ。
当たり前のように勝利を飾ってベンチへ戻り、ラケットをケースへしまう。
周りの女子にタオルや差し入れを手渡されながらグラウンドへ視線を遣ると、有坂がちょうどバッターボックスに立っているのが見えた。
本当は一緒の種目をやりたかったのに、やたら優勝意識の高い担任のせいで経験者はそれぞれ適材適所に割り振られている。
そんなわけでせっかくの学校行事なのに、有坂と離ればなれとか可哀想な目に合っている。
キンッという音とともに有坂の打った打球が高い放物線を描く。
そのまま遥か見えないところへすっ飛んで行って、有坂はホームを回ってクラスメイトと楽しげにハイタッチ。
控えめに言って浮気だ。
モヤモヤしながらコートを出て、水道で顔を洗う。
結局昨日は真面目モードに入った有坂と、図書館で勉強をしただけで終わってしまった。
それでも二人で過ごせる時間は貴重だし、修学旅行の約束も出来た。
ぶっちゃけ有坂の隣にいられるなら、何してても楽しくて堪らない。
が、冷静になると有坂の悩みは教えて貰ってないし、大学についても微妙な話をしたままだ。
有坂は『信用』って言葉を口にしていたけど、さっきみたいに他の奴らと楽しそうに絡んでいるところを見ると不安で堪らなくなる。
こんなんで信用なんて出来るはずがない。
「結城、ここにいたのか」
しばらく時間を潰していたら、不意に後ろから声が飛んできた。
聞きなれた低音ボイスに大きく心臓が跳ねて、世界が一瞬で色を変える。
「――有坂っ」
もしかして俺を探しにきてくれたのか。
すぐさま走り寄ってその手を掴む。
熱い手の温度に堪らなくなって、さっきまでのモヤモヤが一瞬で吹き飛んでいく。
好きだ。
めちゃくちゃ好きだ。
一緒にいたい。
ずっと俺だけを見ていて欲しい。
手を掴んだままぼーっとその顔を見つめると、応えるように頬に手が伸びてくる。
愛しげに撫でられて、自然と自分からもその手のひらに頬を擦り寄せてしまう。
「お前は本当に…」
いつも鋭い瞳がほんの少し柔らかく細められる。
俺だけに向けられるそれは、堪らなく頭が痺れるような熱を持つ。
が、有坂は不意に何か考えるように目を閉じると、俺に触れていた手を下ろした。
「…何を惚けているんだ。皆が結城を探していたぞ」
「えっ?」
「まだ試合が残っているだろう。クラス委員なのだから周りを困らせてどうする」
「そ、そうだけど…」
でもせっかく有坂が来てくれたのに、それより大切なものなんてない。
説教モードよりもっと甘やかして欲しくて目の前の服を手繰り寄せたが、その手はそっと掴まれて下ろされた。
「皆が待っていると言っただろう。お前は運動も出来るからきっと次の種目でもいい結果を残せる」
「で、でも有坂がいないとやる気がおきない」
「そんなことはない。俺がいなくともちゃんと勝っていただろう?皆結城を褒めていた」
「そうだけど有坂がいないと…」
何よりつまらない。
それにさっき触れられたせいもあって、心が緩んで甘えたくなってしまう。
「あ、有坂は試合終わったのか?もし終わったなら一緒に――」
「ほら、チームメイトが呼んでいる」
言葉の途中で、くるりと身体を反転させられた。
遠くでソワソワしながら俺達を見ているクラスメイトの姿が視界に入る。
どうやらあいつらも俺を探しに来たらしいが、今は有坂と喋ってるんだから邪魔すんな。
「あ、有坂、でも俺は…」
「さあ、行け」
まだ離れたくないのに、促すように背を押された。
ぶっちゃけ本気で球技大会なんかどうでもいいのに、有坂の有無を言わせぬ視線に仕方なく足を進めてチームメイトと合流する。
「よぉーし、お前らいい調子だっ。さすがは俺のクラスの生徒達。いいか、目指すは絶対の絶対に優勝だっ」
やたら優勝意識の高い担任の声が、体育館内に響く。
俺の次の種目はバスケで、ちょうど様子を見に来たらしい担任に運悪く捕まって面倒くさい目にあっている。
今は有坂に突き放されたせいでポッキリ心が折れていて、それどころじゃねーんだが。
「ほら、結城からもなんかみんなに言ってやれ」
「はぁ?なんで俺が…」
「委員長なんだからチームメイトの士気を上げるは当然だろ」
勝手に決めたくせに何の無茶振りだ。
とは思ったが、キラキラした視線が一気に周りから集まれば仕方ない。
それにまあ、確かにこの俺がいないと色々始まらないのは分かる。
「とりあえず負けるとかありえねーんだよ。お前ら期待してるぞ」
やる気がなかろうが不満タラタラだろうが、この俺が負けるとかクソダサい展開になるのだけは許されない。
クラスの士気なんか上げた事は無かったが、俺のたった一言で見事にチームメイトは活気づいていた。
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