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「どうしたんだよ、有坂」
もともと有坂は女将さんもお墨付きの無愛想だ。
だから変わらないと言えば変わらないけど、でもやっぱり不機嫌そうだ。
ぐいぐいと手を引かれて、階段の踊り場までやってくる。
その間も俺を目にした奴にきゃいきゃい騒ぎ立てられたけど、有坂と一緒の時はみんな俺に話しかけてこない。
有坂の顔が怖いおかげだ。
「結城、知らない奴にあまり愛想を振りまくな。また前のように危ない目にあったらどうする」
「…えっ、だ、だって有坂がもっと周りの奴に優しくしろって言ったんだろ」
そう言ったら、は、と有坂が目を瞬かせる。
どことなく気まずそうに視線を逸らされた。
なんだ。
俺何かまた間違ったのか。
有坂の迷惑になるようなことしたのか。
「…そうか。結城は努力しようとしてくれていたのか」
「そうだけど…で、でも有坂が嫌ならやめる」
「ああ、いや――ただもう少し、警戒心を持ってほしいと思っただけだ」
そう言って有坂は言葉を詰まらせる。
怒ってるわけじゃないけど、なんだかいつもとちょっと違う。
俺もなんて返したらいいのか分からなくなって、なんか変な空気が流れる。
せっかく楽しみにしていた文化祭の日なのに、どうして朝からこうなるんだ。
有坂と一緒に楽しみたいと思って今日まで色々頑張ってきたのに。
「…すまない、また余計な事を言ってしまったな。少し頭を冷やす」
「べ、別に言ってないし冷やさなくていいけど――」
「いや、お前が努力をしているところに水を差してしまった。反省する」
反省なんかしなくていい。
有坂の反省とかなんかめちゃくちゃ長くてしつこそうだ。
絶対無駄に落ち込んだりするやつだ。
それより今日は文化祭なんだから、反省よりも一緒に遊んで欲しい。
「あ、有坂。俺たちの店番まだだろ。せっかくだからこのまま色々見に行こう」
「え?…ああ」
「有坂の好きなところでいいぞ。いつもは俺が行きたいところに全部合わせてくれるだろ」
本当はこの間の有坂の意見も元に行きたいところを事前にタイムスケジュールにしてきっちり決めてあったけど、こうなったら予定変更だ。
今は俺よりも有坂に楽しんでほしい。
そう言ったら、深かった眉間の皺がどことなく浅くなる。
くしゃりと髪を撫でられた。
「お前は優しいな。変に気を遣わせてしまったな」
「別にいいぞ。有坂は特別だからな」
「――そうか」
そう言ったらなんかちょっと声音が明るくなる。
安定の真顔だけど、俺には分かる。
よく分からないけどちょっと機嫌が良くなった。
ひょっとしてそんなに回りたいところがあったのか。
この俺を差し置いてそんなに行きたい場所ってどこだ。
有坂がどこに行きたいのかと思ってついて行けば、まさかのお化け屋敷だった。
なんでここ、と思ったけど、ここは俺の行きたい所リストにもあった場所だ。
ワクワクしながら二人で中へ入る。
オーソドックスな和風テイストのお化け屋敷で、白装束に長い髪を垂らした幽霊がじわじわと近づいてきたり、落ち武者みたいなやつが突然脅かしてきたり、でも俺の姿に気付いて逆に恐れおののいたり、狭い場所で無数の手が出てきたりといろんなギミックがある。
思ったより結構クオリティが高くて、一年生のクラスだから初めての文化祭ってことで張り切って作ったんだろう。
有坂は安定のずっと真顔で歩いてたけど、それでも一緒だとめちゃくちゃ楽しくてきゃいきゃいはしゃぎながら外へ出る。
「はー、超楽しかったな」
「なぜ怖がらない」
「えっ、そこそこ怖かったぞ」
そう言ったら、有坂がふむ、と少し考える。
一体俺に何を期待してたんだ。
「よし、ならば次はこっちだ」
珍しく有坂が俺を引っ張って先導していく。
いつもは俺の行きたいところに俺が引っ張っていくから、めちゃくちゃ新鮮だ。
次に着いた場所は甘そうなパンケーキのお店だった。
パステルカラーのいかにも女が好きそうな飾りつけで、猫耳メイドがお出迎えしてくれる。
「いらっしゃいませ、ご主人さ――」
ノリノリで声を掛けてきたが、有坂が先に入ったらその顔が明らかにドン引いた。
まあ確かにこんな強面で長身の奴が入ってきたら、何かの取り立てが来たと思ってもおかしくない。
が、後ろに続く俺の姿を目に止めて、すぐにその表情が赤く色づく。
フリフリのテーブルクロスが掛かった席にモジモジしながら通されて、有坂と二人で座った。
つーか有坂はこんなのが趣味なのか。
猫耳メイドよりどう考えたって俺の方が可愛いだろ。
じとりと有坂を見つめると、ピンクにドット柄の可愛らしいメニューを真顔で差し出される。
違和感がすごい。
「ほら、甘い物好きだろう。好きなだけ食え」
「っえ?別に好きじゃないけど…」
「――なに?」
甘いものが好きとか一度も言ったことないけど、なんでそう思ったんだ。
別に嫌いなわけでもないけど、ケーキなら一個あれば十分なレベルだ。
それに俺は女子じゃないし、こんな世界一のイケメンにスイーツとか似合わないだろ。
有坂は俺の反応を見て、ふむ、と少し考える。
猫耳メイドさんがにゃんにゃん言いながら俺達にサービスしてくれるが、有坂は俺を見つめたまま表情一つ崩さない。
どうやら別に猫耳メイドさんが好きなわけじゃないらしい。
それとも本当は大好きだけど、まさか俺がいるから遠慮してるのか。
ギリギリと猫耳メイドに嫉妬しつつも、とりあえず頼んでおいたパンケーキに口をつける。
生クリームたっぷりのそれを口にいれて味わってたら、有坂が険しい顔でパンフレットを見ながらコクリと頷いた。
「よし、なら次へ行こう」
いつになく有坂が積極的だけど、俺は有坂が一緒にいてくれればどこに行こうとそれだけで最高に幸せだ。
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