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期限付きの幸せ
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テーブルの上に置かれた幸理の手が、きゅっと拳を象る。
その掌は、何も掴めなくて。
確固たる保証など、どこにもない。
ただ、その時が訪れるコトを恐れながらも、今は傍に居られる幸せを、噛み締めるしかない。
「オレはβで、お前たちαのような器量は持ち合わせていない。当主の座は重すぎるんだ。だから、賢理……お前に、家督を継いで欲しいんだ」
頼むというように、幸理の瞳が俺に縋る。
今まで、俺に頼むコトなど、無かったのに。
期限つきの幸せが、幸理の迷いを、プライドを消したのだろう。
苛立ちは、簡単に落ち着かない。
もやもやと燻る苛立つ感情から瞳を背けるように、瞳を伏せた。
「俺たちの関係をとやかく言わないなら、別にいい」
あっさりと承諾する俺に、幸理は訝しげな顔をする。
「あんなに嫌がってたのに、……?」
あまりにも軽く聞き入れられ、幸理は戸惑いを露にした。
「幸兄が、人の話聞かなかっただけだろ? 理由も教えてくれなかったし……」
じとっとした視線を向ける俺に、幸理は、気まずそうに瞳を逃がした。
「親父が決めたコトなら、それが一番なんだろうと思っただけだし。αとかβとか関係なしに、幸兄なら適任だと思ってたし」
βでありながらも、周りに負けないように、置いていかれないように、努力していた昔の幸理を、俺は知っている。
そんな幸理なら、俺よりも適任なんじゃないかとも思っていた。
「でも、母さんに貶されたコトは、ムカついてるから。近衛の家に住む気はねぇよ。神田にとって居心地のいい場所じゃねぇし」
握り締めたままの神田の手。
俺は、宙を睨み、怒りを逃す。
「僕のコトは、どうでも……」
「わかった。その辺は、オレもサポートする。あの家に住まなくてもいいように、話せばいい」
自分のコトなど気にするなと発しようとした神田の言葉に、幸理の声が被った。
「お前に負担をかける分、オレはオレなりにお前を全力でサポートをするつもりだから」
俺を見ていた真摯な瞳が、するりと神田に遷移した。
「神田さん。貴方にも、賢理を支えてもらいたいと思ってます」
熱意の瞳で告げられる言葉に、神田は、ゆるりと瞬く。
「もちろん。近衛を…、賢理を支えていきます」
肩の力を抜くように、神田は、ふんわりとした笑顔を幸理に送った。
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