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『2』
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『2』
魔女の家は、とにかく広い。
ちまちま探検しているものの、果てがない。増改築で迷路みたい。その上、ヒヤさんが訳のわからない意匠を施すから、余計に複雑だ。壁に突き当たり、鏡に騙され、和風と洋風がごっちゃになってくらくらする。一階にいたはずが、いつの間にか二階にいる。
緑のドアだけ開けなければ、あとは自由にしていいよ。
部屋を見て回りたい、なんて不躾なお願いをした俺に、ヒヤさんはそう言った。ようは使ってないのだろう。そりゃ、一人暮らしだもんな。こんなに沢山、部屋は要らない。
隠し扉に隠し通路。秘密の階段。いきなり吹き抜けの廊下。室内まるごと庭。床の傾斜が酷い寝室。ステンドグラスの綺麗な部屋があるかと思えば、牢屋みたいに窓もない冷たい小部屋がある。生活導線を無視したどころか、嘲笑うかのような間取り。どうしてこんな家にしたの? 訊いても、明確な答えは返ってこなかった。
「どっからもともと?」
「………………………うーん」
「ピアノとか掛け軸とかは、ヒヤさんが住む前からあったんでしょ?」
「そうだねえ……」
「いつ越してきたの?」
「うーん、……………いつだったかなあ……」
「もう、はっきりしないなあ」
うちの両親なら、グズグズ喋るのはやめなさいって、怒るところだ。さらりと髪を揺らして、小首をかしげるヒヤさんを、じっと見つめる。こちらが凝視すればするほど、ヒヤさんはどんどん顔をそむける。あ、また緊張してるな、この人。
「……これ以上複雑にして、どうすんの」
「どうもしないよ」
「じゃあ、なんでするの?」
「探してるんだ」
言ったあとで、彼は、うっかり口を滑らせた。そんな顔をした。
「なにを?」
「……この家の完成形を」
それは嘘だと思った。でも、少しは本音だろうと言う気もした。
「いつ完成するの」
「…………さあ、いつだろうね」
「…………完成させる気、ある?」
「ない」
そう言って笑うヒヤさんの顔は、楽しそうで、淋しそうだった。
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