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原点①
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学校について、自分の取るべき行動に俺は首を捻った。
とりあえずパシリではなくなったので、朝イチ屋上に行く必要はもうないと思われる。
しかしその確認をボスザルに取ったわけではないので、不安感いっぱいなのが正直なところ。
なので。
「俺も行く」
「いや、大丈夫だから…」
一応屋上に行ってくると言えば、当然真弓も着いてくると言い出すわけで。
そんな事を許可したら、怒りを堪えている真弓の事だ、絶対と言っていい程爆発するはず、と俺は全力で拒否の姿勢を取った。
「真弓、お前には本当に心配ばっかかけて悪いと思ってる。でも、頼むから本当に俺の好きなようにさせてもらえないかな」
「………」
「困った事があったら、真っ先にお前に相談するから」
それまでは、と、俺はお願いのポーズを必死で保った。
真弓はしばらくずっと何かを考えているようだったけど、諦めたのか、一度だけゆっくり瞬きをした後口を開いた。
「…わかった」
「ありがと!」
溜め息を吐く真弓に深々と頭を下げながら、俺は屋上へとダッシュした。
「むっちゃん」
屋上への階段を駆け上がる途中、今一番会いたくない人物に声をかけられて固まった。
「どこいくの?けんちゃんならまだ来てないと思うよ?」
加藤…。
正直を顔を見るだけでムカムカとした何かが腹の底から這いあがってくる。
俺がもし不良とかいう類に属する人種なら、間違いなく殴ってたんじゃないかと思える程に。
「何で知ってるかわかる?」
「………」
「さっきまでけんちゃんの部屋にいたからさー」
「……っ」
自然と、手が拳を作り上げる。
奥歯が、ギリ、っと音を上げそうになった。
「ねーむっちゃん、記憶が戻ったらさ、けんちゃんはイヤでもむっちゃんとこに帰るだろ?だから今はけんちゃんの事俺にくれないかな?」
プツンと、何かが千切れる音が頭の中に響いた。
「あのさ!…恋人とか嘘ついて、そんな事して虚しくないのかよっ、先輩は言ってたよ、加藤と恋人ごっこするつもりはないって、俺が恋人だったんだろって記憶失う前の俺らの事もちゃんともう知ってるんだ!」
背後から声をかけられ、振り向く事もしないまま俺は足元に視線を落としそう捲し立てた。
加藤がどんな顔をしているのかはわからないけど、本当にもうこの目におさめたくなかった、視界に入って来て欲しくなかった。
「だから?別に虚しくないよ?むっちゃんより先に俺の方が好きになったのに、横から奪ってくような真似しといてよくそんな事が言えるね」
「…そんなの、」
「けんちゃんてさー、中身14歳なんだろ?それなのにマジでエッチうまいよね。14歳であれだったら、記憶戻った時のけんちゃんはもっとうまいんだろうなー」
気付いたら、その胸倉を掴んでいた。
想像していた通り、加藤の俺を見る目は酷く蔑むような色を宿していたけど、その中に小さく揺れる奥深い感情を見てしまった俺は、何も出来ないまま加藤からそっと手を離した。
「むっちゃんにはわかんないだろうね。俺の気持ち」
「………」
「けんちゃんには、さっききっぱり断られたよ。でもむかつくからさ、簡単には諦めてやんない。セフレならいいよって言ってくれたから、ちょくちょく借りるね」
それだけ言い残して、加藤は俺の前から姿を消した。
俺は、胸に渦巻いたどろどろした感情に押し潰されそうで、それをどう消し去ったらいいのかわからなくて、屋上への扉を背中に、その場に脱力するように座り込んだ。
何でこんな事になってるんだろう。
何が悪かったんだろう。
どこで間違ったんだろう。
正しいとか間違いとか、本当はどこにも存在しないのに、頭の中はそんな事ばかりぐるぐる考え始める。
一緒にいる為には、こうなる他なかった。
一緒にいる為だったのに、こうなってしまった。
この先また一緒にいられるようになる保障なんかないのに、俺は何で頑張ってるんだろう。
もう、わからなくなってきた。
そう、じわりと涙が滲んだ時。
「何やってんだ」
膝に顔を埋め、屋上への階段をとうせんぼしている俺に、怪訝そうなボスザルの声が降って落ちてきた。
「邪魔だろ、どけ」
「………」
「聞いてんのか」
「…さっきまで、加藤と一緒だったんですか」
「あ?」
朝からまた、加藤とえっちな事してのか。
「だったら何だ」
「………」
「お前、昨日言ってなかったか。別に大丈夫なんだろ」
そんな事、あるわけないじゃないか。
大丈夫なわけないじゃないか。
本当にもうなんなんだ俺は。
「イヤだって言ったら、やめてくれるんですか…」
「ムリだろ」
「………」
「お前、」
「じゃあもういいです。俺もう離れます。それでいいですよね」
手の甲で涙を拭いて、俺は立ち上がった。
ボスザルを見たら絶対もうわけわかんなくなると思ったから、視界には絶対映らないようにしてその横を通り抜けた。
「…何ですか」
だけど、不意に腕を掴まれて、俺の全部が停止する。
心臓が、押し潰されそうな程に痛くて堪らなかった。
「来い」
正直怖かったけど、俺は抗う事をしなかった。
そのままぐいぐい引っ張られて、人気のない場所まで連れていかれる。
立ち止まったと思えば、壁に強く押し付けられて。
真っ直ぐに目を向けられた俺の心臓は、心は、精神は、文字通り瀕死状態だった。
「お前の為に俺は死神を解散した。そうだろ」
「………」
「正直今の俺には全く理解できねぇ。けど記憶を失う前の俺はそれをいとも簡単にやってのけた。そこまでお前が大事だったって事だ」
何が言いたいのか、よくわからない。
というより顔が近くて心臓が痛い。
「だからお前が俺から離れる事は許されない」
「……いやだ」
その目を見詰めたまま、苦しいと吐露するように言葉を吐き出せば、当然のように涙が溢れた。
「何て言っていいかわかんねぇけど、許すなって俺が俺に言ってんだ」
「………」
「前みたいに大事にはしてやれねぇ。勝手な事言うけどな、俺だってどうしていいかわかんねぇんだよ」
涙で歪んだ視界には、ボスザルの困ったような表情が移り込んでいる。
記憶が逆戻って、一番混乱しているのはこの人なんだ。
全く記憶にない事を、こうだったああだったって言われたって、誰だってすぐには受け入れられないし、拒否をしたくなる事だってあるだろう。
大魔王が言っていた、そこへ辿り着くまでのプロセスが欠けてしまったら、それはもうなかった事と同じになるのだから。
酷い事をしているのは、俺の方なのかも知れないと、そう思った。
「…わかりました。でも俺だって辛いです。忘れられて、辛いです」
でもだけど、辛いのは同じなんだよ。
それだけは覚えといて欲しいと、俺は言葉に残した。
「…ん」
「あの、」
そしてまた俺は余計な事を聞こうとしている。
「か、加藤と、せ、せふ、セフレとかになったって、」
「アイツがそうしつこく言ってくるから成り行きでそうなった」
「…朝から、えっちな事してたんですか」
「朝からっつーか、昨日お前んとこのおっさんが帰った後家に押しかけてきたからな」
つまり、朝まで、と…。
またじわりと涙が滲んだ。
「…俺には、してくれないのに」
…………。
はい待って。
はい待って。
はい待って!!!!!
「ごめんなさい何でもないです最近背後霊の呟きがまるで俺が言ったみたいな感じになる事があってだからきっとさっきのも背後霊というか地縛霊というか怨念というかその辺全般の呟きだと思いますというかそうなんです」
真っ赤になった顔は、だけども隠しきれなくて。
「べ、別に俺はそういう破廉恥な事はしたくないというかするつもりなんかまったくないので変な気起こさないで下さいね戻ります!!」
「おい、」
「わかってますから何も言わないで下さい俺を殺す気ですか!!?」
「………」
呆気となるボスザルを残して、俺はそのまま光の如く姿を消した。
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