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「おお!!!結構でかい…!!」
てっきりコンビニサイズかと思ってたら普通に大きくて、どんなものがあるのか心躍らせて店内に入った。
入ってみるとあらまびっくり。
「めっっっっちゃ多い……!!!!」
普通のスーパーなら一種類しかないようなものまでバリエーション豊かに置いてある。
全部買ってみたいという物欲を何とか抑えて、食品コーナーへ向かう。
「…ん〜、暫くは節約したいしサラダと鶏むね肉ぐらいでいいかな…」
前までの生活費は全部先輩持ちだった(というか先輩の親持ちだ)けどこれからは自分でお金を稼がなきゃいけない。
「…僕みたいなの、どこか雇ってくれるかな」
お会計を済ませ、いつもより少ない買い物にまた、あの人の顔が脳裏に浮かんだ。
…今日からはもう、1人分だけ作ればいいんだよ。
あんなに時間かけて作ることも無い。
自由な時間が増える。
良いことだらけじゃん。僕。
うん、良いこと。
だけど
先輩の夕食考えてる時間…
結構好きだったんだけどな。
ああ、早く、おうち、帰りたい
なんて考えていた
その時だった。
「…あの、大丈夫ですか?」
突然、後ろから声をかけられ身体がビクッと跳ねた。
「!!…あ、はい、大丈夫です…」
どうして突然声をかけてきたのか意味がわからなくて、顔が歪む。
も、もしかして変質者…?
「あ、ああ…すみません、突然声をかけてしまって、君がなんだか…思い詰めたような顔をして歩いていたものですから…」
「え…いや、そんな訳じゃ………僕、そんな疲れた顔してますか…?」
「…ええ、とても。あ、もし宜しければなんですけど今からお時間ありますか?」
「…………?」
_怪しい、とは思ったけどとても優しい笑顔を向けてくれて、この人は大丈夫、何故かそう思った。
_
「ここって…」
「私の病院だよ、君、本当に疲れきってる顔してるから…。時間あれば1度診察させてもらってもいいかな?」
このまま家帰ったって、また、先輩のことばっかり考える。
なら…
「…はい、お願いします」
そのまま僕は、ドラマとかでよく見るような診察室に連れてこられた。
病院なんて、連れてきてくれる人、居なかったから…お医者さんにかかるの初めて…。
「えっと、まずは…私は葉山(ハヤマ)と言います。ここの病院の院長をしています」
そう言って、名刺を渡された。
「葉山…彰(アキラ)さん…。院長さんなんて、凄いですね…」
…僕とは大違い。
「いえ、早く実家を出たい一心でお金を貯めて、独立したってだけなんですよ」
「だけって…僕なんかより、ずっと、ずっと、凄いですよ」
「……もし宜しければ、お話聞かせていただけませんか?今日は定休日なので他にお客さんも居ませんし、医者には守秘義務というものがありますから貴方から聞いたお話を誰かに話したりもしません。お約束いたします、それに、誰かに話すことで少しは気持ちが楽になるかもしれませんよ…?」
_この人になら、言ってもいいかもしれない。
初めて会った人にそんな感情を抱くなんて、普通じゃない…でも僕は、誰でもいいから聞いて欲しかったのかもしれない。
この心の内を。
「…………僕、まだ赤ちゃんの頃、親に捨てられて施設で育ちました。だけど僕のこの肌色のせいか、大人はおろか、同い年の子でさえ僕に近寄ることはありませんでした。
そんな環境で育ったせいでしょうか…人を信じることが出来なかったんです。
小中、友達なんて…居ませんでした。僕に話しかける子は居ましたが、心のどこかでいつも人を疑って…結局突き放しました。
だけど高校になって、ある人と出会いました。
その人は、弓を、打っていました。
その姿にどうしてか心惹かれてしまって…
今思うと、一目惚れ…ってやつです。
その時、僕の人生は変わりました。
毎日毎日、部活に励みました。
人から見ればみっともないくらい汗水垂らして動くことが、その人の隣に入れることが、本当に…本当に楽しかったんです。
だけど、その人に告白したりとか…そんなことは諦めていました。
僕は…ゲイなんです。
好きになった人も、男です。
だから両思いなんてなれないことを知っていました。
だから先輩が卒業したら、この思いは誰にも話さず、自分の中だけで消化させようと思っていました」
一気に話しすぎちゃったかな…
少し不安になり、先生の顔をチラッと伺う。
「大丈夫です、質問しませんし、あなたが話したいように話せばいいんです。あなた自身の心の整理のために」
「じ、じゃあ…ふぅ。
だけど、先輩の卒業式の日。奇跡が…ええ、奇跡が起こりました。
先輩が僕に告白をしてきてくれたんです。
夢かと思いました。ドッキリかと思いました。でも先輩の表情は弓を打っている時と同じ、真っ直ぐに前を見つめる真剣な目をしていて…ああ、本当なんだって。
もちろん僕は、首を縦に振りました。
本当に、本当に、本当に、嬉しかった。
その後、僕が高校を卒業して先輩と同じ大学に進学して、暫くは幸せでした。
一緒に住んで、もっと先輩のことを知っていっていると実感するのが嬉しかった。
だけど…たまーに、帰ってこない日がありました。
友人の家に泊まっているだけ。先輩はそう言いました、だから、僕はそれを信じた。
先輩を疑うなんて出来なかった。
…決定的だったのは、先輩の誕生日です。
前の日、先輩は帰ってこなくて初めて先輩を疑いました。
だけど、先輩の誕生日だから帰ってきてくれるって信じて、先輩の大好きなものを作って待ってようと思ったんです。
そしたら………
僕らの寝室から、声がするんです。
艶やかな、女性の、喘ぎ声が。
その時初めて知りました。
先輩は、浮気していた……って。
暫くは公園で頭を冷やしました。
だけど、どう考えてもやっぱり僕は先輩が好きで。
先輩の下を離れるなんて考えられなくて。
だから、女性のいる僕達の家に帰りました。
僕が先輩と付き合っているんだから堂々としていれば良かったけど、そんな自信はとうになくしていて、ばれないようにそっと眠りました。
次の日、僕が寝覚めると先輩も女性も居なくなっていて、1人で先輩を待っていました。
大学にも行かず、食事もろくに採らず。
どうして先輩を待ってたのか…わからないんです。問い詰めたかったのか、一番は僕なんだって言って欲しかったのか…分からない、だけど、会いたい。そう思って待ってました。
そしたら、先輩じゃなくて…
昨日の女性が来たんです。
今思うと笑っちゃいますよね…
その人が言うには先輩は僕のこと、弟だって紹介してたらしいです。
先輩の中でとっくに僕は恋人から降格していたんです。
だけどその女性は…僕なんかにとても優しくて、嫉妬する自分が醜いと思いました。
恨むことさえ出来ませんでした。
その日、先輩は帰ってきたんですけど1回も目を合わせてくれなくて、素っ気ない言葉で。
すぐに出ていきました。
その時、もうどれだけ僕が先輩を願っても…戻ってこないんだと知りました。
いや、とっくに知ってた。知ってたけど離れたくなくて…突き放されたくなくて、見て見ぬふりを続けてきた。ずっと逃げ続けてきた。
だから、家を出てきました。気持ちに区切りをつけて。
それでこの近くにアパートを借りて、今はそこで暮らしています」
二人の間に言葉は無く、時計がチックタックと刻む音が部屋中に響いていた。
「…本当に滑稽ですよね。そもそも僕が男を好きにならなきゃ良かったのに…本当、馬鹿でした」
「…自分で自分を卑下するのは駄目です」
「…え?」
「他のどんな人に何を言われようと、自分の1番の味方は自分自身です。自分だけは自分を信じてください。愛してください。自分を愛することの出来ない人は、人を愛すことも出来ませんよ」
「…あ、、それって自分を愛せない僕は先輩のことも愛せてなかった…ってこと、ですか…?」
「ああ!いえいえ!そういう意味では…ただ自分を卑下する人に神様は微笑んではくれないと思うんです。だって常に下を向いて、自分なんかって思って、暗い人と、前を向いて、自信のある、輝いてる人なら神様は後者を優先するのではないかと私は考えていまして」
「…そう、ですね。そうかもしれませんね」
「別にあなたを落ち込ますつもりはなかったんです!すみません…」
「いえいえ、むしろ感謝を伝えたいです。先生がそう言ってくれるまで僕は"可哀想な自分"に酔ってました。まるで悲劇のヒロインだとでも言うように。違いますよね、僕はヒロインじゃない。僕はモブだけど、モブはモブなりの幸せがありますよね…すみません、先生。話聞いてくれてありがとうございました。おかげで少し進む道がわかった気がします」
「いえ、少しでも前を向くお手伝いができたなら良かったです。今更ですけどお名前伺ってもよろしいですか?」
「あ、ああ!!まだ言ってませんでしたね…風上蒼太っていいます」
「風上蒼太さん…素敵なお名前ですね」
「…ありがとうございます、施設長に付けられたんです…不思議な人なんですよ、僕に近寄ろうともしないのに僕の高校と大学の費用、全額出してくれたんです。義務教育じゃないから嫌いなら行かせなくてよかったのに…」
「……私に本意は分かりませんが、きっとその人なりの愛情だったんでは無いですかね」
「愛、情…?」
「ええ…その方が風上さんのことをどう思ってたかは分かりません、だけど人間そう簡単に非情になれないもの…育ての親として風上さんに思うものがあったと思いますよ。そして風上さんに声をかける者がいない施設じゃなくて、違う場所で心休める場所をあげたくて学校へ通わせたんじゃないですかね…きっと彼なりに風上さんを愛していたんですよ。人って不思議なもので、長く一緒にいるとどんなものでも愛着が湧くんです」
「…そう、なんですかね……」
「本当のところは分かりません、だけどそういう解釈も出来るだけです。それが真実じゃなかったとしても、愛されていたと考える方が楽じゃないですか」
「そう、ですね…その方が何だか楽になれます」
「…人生そんなもんです。全てをネガティブに受け止めるんじゃなく、本当かどうか分からないならポジティブな方に受け止めればいいんです。少なくとも私はそうして生きてきました。心への負担は少ない方がいいですからね」
「…素敵な生き方です。僕も先生みたいに、前を向いて生きていけますかね…」
「ええ、きっと…いや、絶対できますよ。だって私が出来たんですから」
そう言って、先生はまた優しく微笑んだ。
この人なら…そう思ってダメもとで聞いた。
「…あのっ!!」
「はい?どうかしましたか?」
大きく息を吸って…
「僕!医療の知識なんて高校の部活程度のしか分かりませんけど!!!それでも…!!」
こんなやつを雇ってくれるのかなとか。
そもそも今の人数で足りてるとか。
話聞いただけなのに迷惑とか。
思われちゃうかもだけど。
でも……変わりたい…!!!!!
「ここで働かせてくれませんかっ!!僕も…先生と同じように生きたいです!!!前を向いて…!!」
…それは紛れもない本心。
先輩のことを忘れたいわけじゃない。ただ受け止めたい…!!
先生は目を見開いて驚いたあと、サラサラの黒髪を耳にかけ、メガネをクイッと直し、口角を上げて…
「……ふふ、私は厳しいですよ?」
そう言った。
「はいっ!!!!よろしくお願いします!!!!」
その後は仕事のために連絡先を交換して、簡単な仕事内容を教えてもらった。
この病院は葉山先生の他に3人の医者と看護師がいるそうだ。
優しい人ばかりだから心配しなくていいと。
本当かな、でも、初めて見つけた先輩以外に信用できそうな人…。
…うん、ここで頑張ろう。
頑張って
そしたら
お金貯めて
施設長に会いに行こうかな。
_家に帰るその足取りは、さっきより何倍も軽かった。
…今日、葉山先生に出会えてよかった。
初めて先輩以外に信用出来そうだった。
それに働かせてくれる。
今日は、とても良い日かもしれない。
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