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あれ・・・?
なんかゾクゾクする。
風見は、しっかりと鈴谷に指導を行い、日報の書き方を仕込んでいた。
「営業日報の目的は、進捗の確認、どのような課題があるのかを判断する材料になるんだ。」
つまり、
『時間通りにお客様のもとへ向かった。馬の耳のように大きな耳で、馬の体のように略どう感のあるメリハリの効いたお話をしようとしたら、忙しいと追い出された。またチャレンジしていきたいです。』
こんな書き方では、何も伝わってこない。
「鈴谷は、初めて訪問したんだよな?」
打ち合わせ室で向かい合って、鈴谷の書いた日報を手に確認した。
「はい、初めて行きました。」
なら。
「第一回目の訪問という文言を入れる必要があるんじゃないのかな?これだと、」
お粗末な読書感想文だ。
その一言を堪えて言った。
「・・・数か月後に確認した時に、わからなくなるだろう?」
「あぁ!そうですね!」
納得してくれた。
「お客様には、どんなお話をしたんだ?」
「えっと、サッカーの話と、好きな食べ物の話です。」
・・・飲食店を経営している会社だから、良いだろう。
「他は?」
「何も。」
うーん。
「電話機は何を使っていた?」
「えっと・・・。」
主要な大手通信会社のものだった。
「複合機は見えたか?」
「よくわかりませんでした。」
なるほど。
「事務所の広さはどれくらいで、机は何が置いてあった?」
「ええ?!」
例えば、自販機が社内に設置してあったか、タイムカードは紙式のものだったとか、机の上に大量の紙が積んであったとか、そういった些細なことが商談へと繋がる。
「・・・見てません。」
うーん。
どう引き出したら良いのだろう。
「今回の提案の目的は何だ?」
「えっと、サービスを売りたくて。」
サービス、つまり、うちの商品のことだ。
噛み砕いた説明が欲しかった。
「飲食店を経営している会社に、何を売り込みするつもりで行ったんだろう?」
そう言うと、鈴谷は思い出したようだった。
「シフトです!シフトの設計とタイムカードと給与システムの連携をして、給与計算の効率化でした!」
現在が表計算ソフトで対応しているようなら、サービスを導入すれば画期的に仕事の効率化が計れる。
雑談をしながら、その会社の置かれた状況を探っていくのが俺たち営業マンだ。
相手の反応や、今後の対応を整理するのに日報を使う。
単に、何時にどこに訪問したという履歴だけなら、いらないのだ。
「だろう?きっとアルバイトのシフトは、各店舗の責任者がやっているはずだ。そのあたりのことを、聞き出さないと、どう提案したらいいのか分からないだろう?」
「はい!聞いてきます!!」
気持ちのいい返事に、ほんの少し頭痛が和らいだ。
「まだ初回だ。目に焼き付けるつもりで、事務所の中の様子を見てくることと、お客様のお話をしっかり聞いてきなさい。」
と。
ゾクッと背筋が凍った。
・・・あれ?
「アポは?」
「13時です!」
元気いっぱいの鈴谷に頷きながら、風見は内心眉をひそめた。
急に背中がゾクゾクしだしたからだ。
・・・風邪かな。
「期待してるぞ。」
「頑張ります!」
鈴谷はガッツポーズして、打ち合わせ室を出て行った。
風見は書類を片付けながら首を捻った。
・・・腹でも出して寝たのかな。
風邪薬、買いにでよう。
小夜は来週から実習だ。
小さな子どもを相手にする小夜に、風邪を伝染すわけにはいかない。
ついでにライムに寄ろうかな。
加藤に鈴谷が同行した企業を、確認したかったのだ。
加藤の商談の進め方と、俺のやり方は違う。
何を研修中に得ることが出来たのか、改めて分析することにした。
入社して、もうすぐ半年。
そろそろ素質を見極める必要があった。
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