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そう思うのと同時に指に触れた舌の感触を思い出してしまった。
「そんな事は、ない……」
初対面の男にそんな事をされたのだと知られたくない鈴は、熱くなる頬に向きそうな意識を散らすよう静かに目を伏せて首を横に振る。
なのに、先程舐められた指先がジンと痛み、それを誤魔化したくて強く握り締めた。
──ただの通りすがりだ……もう、会わないかもしれないしな
捉え所のないのは苦手。
強い色の瞳は苦手。
自分の足元が崩れてしまいそうになるから。
だから、一瞬感じた優しい空気ごと忘れてしまいたかった。
ざわめく教室の中、鈴は一人、驚きのあまりに固まっている。着々と黒板に文字が書かれ、チョークを置いた担任が振り返った。
「えー、転校生を紹介する。今日から同じクラスの時川零だ」
最初に紹介をしながら隣の男を見て、挨拶をするよう促す。
「時川零です。よろしく」
爽やかに笑う彼は明らかに昨日会った男で、鈴は肘をついた手に額を当てて俯く。
──早速次の日会ってるじゃないか……っ
自然と溜め息を溢し、顔を上げてもう一度前を見た。ゼロは人懐っこい笑顔で女子から黄色い歓声を浴びている。新しく来た上に、整った容姿ならばそうだろう。
担任もあまりの盛り上がりに苦笑を浮かべてゼロの席を探す。
「じゃあ、席は……」
今空いてる席は二つ。一番前の席と、もうひとつ。
指で示そうとしている担任の手を追っていたゼロが、不意に止まった。
「あれ……水無森鈴?」
「っ!?」
いきなり名前を呼ばれ、ギクっと身体を強張らせた。ゼロの言葉に担任も手を止めて彼を見る。
「ん? 水無森と知り合いか?」
「えっ……いや、別に」
鈴は反射的に慌てて否定するも逆に怪しまれると思って言葉を止めると、担任は気にした風でもなく席を決めた。
「まぁいい。じゃあ、水無森の隣に座ってくれ」
「ああ、はい」
運悪くもうひとつ、鈴の隣は空席。
──……ヤバイ……
指示された通りに真っ直ぐその席へ向かってくる。ドサっと机の上に鞄を置いたゼロを見上げると、彼は満面の笑みを浮かべて鈴を見下ろし
「よろしく」
その確信犯的な笑みに、思いきり眉間に皺を寄せてしまった。
これが最悪な一日の始まり。
四時限目終了を告げるチャイムが校内へ響き渡り、一気に廊下が賑やかになる。早速クラスメイトに捕まりそうになっているのを察し、その前に隣の彼の気をこちらへ向けさせた。
「時川、ちょっと一緒に来い」
机にある手を取ると、女子から黄色い悲鳴が微かに上がったが、気にしてる場合ではない。相手が立ち上がったと同時に手を引っ張って教室を後にした。
この棟で落ち着く場所といえば生徒会以外立ち入り禁止の屋上しかなく、足を踏み出して誰もいないのを確認しながらフェンスへと近付き振り返った。
「で、何故俺の名前を知ってる? ゼロノ・メア」
風になびく髪を押さえて見上げると、楽しそうに目の前の男が微笑んだ。
「あれ? 名前覚えててくれたんだ」
「俺の質問に答えろ」
少し苛立った口調で問うと、彼はワザと肩を竦めさせてみせる。
たった半日、ゼロは不思議なくらいコロコロと表情が変わって忙しい。
「名前は昨日舐めたお前の血から読ませてもらった」
「血?」
素直に白状した回答に対して怪訝そうに眉を顰めれば、困った顔で苦笑を漏らす。
「俺、吸血鬼なんだ……ってもう一回言ったら信じる?」
「最初にも信じない、と言っただろう」
「だよな」
予想通りの態度にゼロは一瞬、切なげに瞳を揺らした。それを悟られる前に鈴の手首を掴んで彼の顔の高さでフェンスに押さえ付ける。
ゼロの視線の先には指先の絆創膏。
「急に何するんだ!?」
慌ててゼロの手を退かそうとする鈴のもう片方の手も易々とフェンスに縫い留めた。
目を丸くして見つめる鈴を一瞥してゆっくりと指先に唇を寄せ、口で絆創膏を剥がしていく。昨日開いたばかりの傷口はまだカサブタが出来てはいない。そこへ舌を這わすと、唾液を擦り込ませる様に押し付けた。
「っ……んぅ、ぁつ……!?」
傷口が急に熱を持ち、戸惑いに目を強く瞑った。耳の横で聞こえる水音から逃れたくて俯いたのに、熱に侵される感覚に声が自然と漏れてくる。
「は…ぁ、ぅ…く…」
舌に当たる感覚が滑らかになったところでゼロはようやく指から唇を離し、震える息を落ち着かせようとている鈴を、真面目な顔で見下ろす。
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