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蜃気楼の攻防3
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突如降ってきたそれは、禍々しい化け物だった。二本の角が生えた頭に、恐ろしい顔。そしてその身体は巨大な蜘蛛のようで、鋭い鉤爪がついた強靭な脚が四対も生えている。もしカリオスが助けてくれなかったら、少年はあれの下敷きになって潰れていたことだろう。
(これも幻……!? いや、でも、この人の言う通り投影された幻なんだとしたら、僕たちがどうこうなることはなかったんじゃ?)
脳に直接作用するような幻術ではなく、魔術灯篭と同じような原理の幻術だとしたら、触れることはできないコケおどしのようなものの筈だ。だというのに、何故カリオスは風の力を借りてまで回避に徹したのだろうか。
そう思ってカリオスを見上げると、彼は緊迫した表情で化け物を睨み据えていた。そこには先ほどまで見せていた余裕は欠片もなく、およそ幻を相手にしているとは思えないその様子に、少年は思わず身を固くする。
「あ、あの、あれも、幻、なんじゃ……」
震える声でそう問えば、カリオスは少年を抱く腕に少しだけ力に込めた。
「ええ、十中八九、貝たちもあの魔物も、本体を除けば全てが幻でしょう。ですが、」
少年を抱いたまま、カリオスが剣を構える。
「……憶測に過ぎませんが、恐らくあれらは、実体を伴った幻なのです」
そう言ったカリオスに、少年は目を丸くした。実体を伴う幻など、そんなものは最早幻とは呼べない。
「え、あ、あの、幻惑魔法も、そういうことができるんですか?」
「いいえ。いかに幻惑魔法を極めた魔法師でも、幻を実体化させるようなことはできません。だからこそ、私も初めはあり得ないと思いました。しかし、ただの投影幻術が魔法を弾くとなると、その可能性が最も高いのです」
それはつまり、この何十にも及ぶ貝も、先ほど現れた化け物も、全て実体を持った生き物そのものに等しいということだ。そして少年は、かつて幻とは異なるが似たような状況に置かれたことがあることを思い出した。
そう、赤の王に助けられた、あの市街戦である。あのときは空間魔導を操る敵によって無数に呼びだされる魔物の全てを赤の王が相手取ったのだったが、状況としては今回も非常に似ていると言えるのではないだろうか。
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