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蜃気楼の攻防9
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きっと、先ほどの魔法だって使う予定なんてなかったものなのだろう。金の国の国民は総じて魔法適性が低いのだとグレイは言っていたが、それは目の前の彼も同じなのではないだろうか。金の国の中では魔法が使える方だとしても、例えば赤の国の騎士団長たちと比較するならば、きっと魔法適性の面では不利だろう。そんな彼にとって、さっきのような大技による魔力消費は決して少なくはないはずだ。それでも彼が魔法を使用したのは、やはり少年の不安を払拭するためなのだろう。一気に大量の敵を倒すことで、追い詰められている訳ではないと証明しようとしてくれたのだ。
それが虚勢であることは、とうに判っている。先ほどカリオスが使用した魔法を以てしても敵の全てを倒すことは叶わず、どこにいるのか判らない本体に攻撃が届くこともなかった。そして、カリオスが削った戦力は早くも補充され始めている。本体を倒せなかったということは、そういうことだ。
一方のカリオスは、少年という足手まといを抱えた上で立ち回るしかなく、先ほどの大規模な雷魔法を使用したせいか随分と疲労が溜まっている。どう考えても、限界である。
それでもカリオスには諦めるという選択肢はないらしく、再び地面を蹴った彼は、追い縋る蜘蛛の化け物たちを散らしながら、貝を仕留めていった。だが、動きが鈍り始めたその脚を、とうとう異形の化け物が捉えてしまう。
「ッ!」
着地した瞬間の脚を鋭い爪に貫かれ、カリオスは息を詰めた。寸でのところで倒れるのは防いだが、深く突き刺さった爪をすぐさま引き抜くことができず、身動きが取れないでいるところに、牙が並ぶ魔物の大きな口が迫って来る。咄嗟に少年が身体の正面に来るようにして抱き締めたカリオスは、脚の肉が千切れるのを覚悟の上で無理矢理に爪から逃れ、回避行動を取った。だが、僅かに遅い。
カリオスがその場から離れるよりも早く、魔物の牙が彼の背を襲う。
「ぐぁッ!」
直撃こそ免れたが、魔物の牙は容赦なくその背を抉り、鮮血が散った。だがそれでも、カリオスが歩みを止めることはない。留まれば追撃が来ると、考えるまでもなく判っていたからだ。
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