アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
17
-
その日の講義は、いつにも増して頭に入らなかった。
教授が身振り手振りしながら何かを話していて、ホワイトボードを指して、何かを繰り返している。
けれど、その内容は全く耳に入らなかった。
机に頬杖をついて、ただそれを眺めていた。
明日も、明後日も、その次の日も、
もしかしたらもう二度と会う事が無いのかもしれない。
そんな、名前くらいしか知らない、ずっと年上の男に会いたいと思うなんて、可笑しすぎて笑う気にもならない。
心底、馬鹿だと思った。
しばらくして、周りがガタガタと騒がしくなって、いつの間にか講義が終わっていた事に気付いた。
「川島、昼飯行こうぜー。…何してんの?」
いつの間にか横に立っていた駒場が、いつまでも座っている俺に怪訝そうに話しかけてきた。
「…あ、いや、何でもない。…もう昼飯?」
「はぁ?何言ってんの、大丈夫かお前。」
自分でもどうかしてると思う。
駒場と芳賀と一緒に食堂へ行くと、もうだいぶ混んでいて、端のテーブルの一角に座った。
「お前、急に真面目なふりしだしてさぁ。無理してストレス溜まってんじゃねぇの?」
「最近、飲みに誘っても来ないもんなぁ。」
ラーメンをすすりながら、駒場と芳賀が口々に言う。
「いや、なんか、…毎回飲みすぎるから、控えようかと思って。」
カレーをスプーンですくいながら言ったら、2人に爆笑された。
「あっははは、何だそれ、おっさんかよ!」
「それ休肝日?ウケる」
そんなに笑う要素がどこにあるんだ、と思う。
「なぁ、ストレス溜めんのも良くないって!たまにならいいだろ、飲み行こうって!」
食い下がらない駒場と、頷いてこちらを見る芳賀に、俺は黙って首を横に振った。
「……あれ、シマは?」
遅れて学食に入って来た真木は、見知った同級生達の側に川島 恵がいない事に気付いて、近くにいた駒場に話しかけた。
「あ、真木ー。おつかれー。川島?川島ならちょっと前に食い終わって出てったよ。」
「……ふーん、あっそ」
「あいつ、今日の飲みも行かねぇって。なんなんだろうマジで。」
「彼女でも出来たんかな?や、彼氏?どっちだ?」
口々にそう言って、あはは と笑う友人達。
真木だけは真顔で、ポケットから取り出したスマホを睨んでいた。
ここ数日、川島に送ったラインは既読がつかないままで、
再度確認してみても、そこには相変わらず未読のままの文章の羅列が並ぶだけだった。
「……はぁ?……ふざけんなよ、クソが」
その呟きは、その場の誰にも気付かれない程低く、冷たいものだった。
ーーー
ーーーーーー
最終の講義の後、駒場達にまた誘われる前にさっさと帰るつもりで、
構内の通路を正面玄関に向かって歩いていたら、ポケットの中のスマホが振動した。
取り出して画面を開くと、芳賀からのライン通知。
〝マジやばい。桜井教授に資料集めてほしいって言われたんだけど、全然終わらない。やばい。何とかして。〟
そんな内容にスタンプがいくつか。
今どこにいるのか、ラインで返信すると、間を開けずに
〝1階 西側の奥〟と返ってきた。
桜井教授…
確か何かと口うるさい、面倒な奴だった気がする
はぁ?
なんでそんな面倒な事にいちいち俺を巻き込むんだ
このまま無視するか
でも駒場はともかく、芳賀は割とマトモな奴だから、俺にラインを寄越すくらいには困ってるのか…
そんな風に思い直して
1階、西側の奥……
そう口の中で繰り返しながら、俺はその通りに、来た通路を戻った。
フリースペース、学食、講堂を通り過ぎ、1階西側の奥、そのドアの前まで来て、
ハッとした。
「……ここ、…」
そこは、真木に見張りをさせられた準備室だった。
ドアを開けて見ても芳賀の姿は無くて、
そこには資料など有りそうも無く、椅子や古い机などが放り込まれているだけだった。
もう一度芳賀にラインをしようとした瞬間、突然背中に強い衝撃を感じて、視界がぐらついた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
18 / 23